第7話 ◯目覚め
それから長い時間が流れた。
ヒトはこの星から去り、文明は失われた。
パークに残されたフレンズ達も代替わりし、アムールトラの事を覚えている者はいなくなった。
それらが変わってしまった後も、各地のラッキービーストは、フレンズにジャパリまんを配給したり施設の補修を行ったりと、パークの管理を粛々と行っていた。
フレンズ達は、そんな彼らをボスと呼び、無口でよく分からないフレンズとして接していた。
ヒトの力が無くなった事で、セルリアンの脅威が高まるかに思われたが、独自に野生解放を身に付けたフレンズが多数現れ、セルリアンとの戦いは一定のバランスが保たれていた。
これは、彼女の事を忘れない、あるいは彼女の力になりたいといったフレンズ達の思いが、形となって現れた結果なのかもしれない。
ある日、隔離施設付近で大きな地震が起こると同時に火山が噴火し、サンドスターが放出された。これにより建物の内部にあったものが激しく振動した。
これを結晶が動き出したと誤解したコンピュータは、すぐさま信号を送り、アムールトラを目覚めさせた。
長い眠りから目覚めたアムールトラは、瞬時にビースト化した。
そして檻を破ると、そのまま結晶に強烈な一撃を加えた。
しかし結晶は相変わらず沈黙していて、全く効果が無かった。それに気付いた彼女はビースト化を解き、攻撃を諦めた。
それでも野生解放は止まらない。このままでは何もできずに動物に戻ってしまう。彼女は必死に考えた。
アムールトラ『どうしよう。何か、他にできることは…。』
施設の外からセルリアンの気配を感じたアムールトラは、天井を突き破って表に飛び出すと、雄叫びを上げた。
それを聞きつけて複数のセルリアンが集まって来た。
アムールトラはその中へ飛び込むと、片っ端から蹴散らした。
彼女の一撃を受けて吹き飛ばされたセルリアンの一体が、施設の壁に突っ込んで砕け散った。
その風圧で、檻の中にあったスケッチブックが飛ばされて、セルリアンの結晶の上に落ちた。
さらに屋根の穴からサンドスターが転がり落ちてきて結晶に当たった。するとそこから2人の漆黒の羽を持ったフレンズが生まれた。
戦いが終わると、煌めくかけらの山の中にアムールトラが立っていた。周囲は竜巻が起きた後のようにめちゃくちゃだった。
これでけものプラズムが一気に失われ、そのまま動物に戻るかと思われたが、なんと彼女はセルリアンのかけらから輝きを取り込み、力を回復させた。
長い休眠の結果飢餓状態に陥った彼女の体は、輝きを直接取り込んで、フレンズの体を維持出来るようになっていたのだ。
それからアムールトラは、セルリアンの気配を感じるたびに、そこへ駆け付けては戦って、輝きを取り込んだ。
輝きの効果は力の回復だけではなかった。
他人の輝き、すなわち楽しい思い出に触れる事で、戦いだけだった彼女の心にも徐々に穏やかな気持ちが芽生えてゆき、他の事にも関心を持つようになっていった。
また、これを繰り返すうちにペース配分が出来るようになり、活動できる時間が増えていった。
このようにセルリアンとの戦いは、アムールトラが生きてゆくために必要不可欠であり、彼女の雄叫びは、セルリアンを引きつけると同時にフレンズ達を危険から遠ざけ、被害が及ばないようにする合図だった。しかしそれに気付いてくれるフレンズはいなかった。
フレンズを救ったこともあったが、彼女の性質上、意図せず周囲を破壊してしまうため、分かってもらえなかった。
木から降りられなくなったフレンズを助けようとした時は、木を根こそぎ倒してしまったし、川に落ちたフレンズを助けようとした時は、飛び込んだ衝撃でその子を大量の水と一緒に岸まで吹っ飛ばしてしまった。川底には大穴が開き、まるで隕石でも落ちたかのような有様となった。
こうして、アムールトラはあちこちで雄叫びを上げて暴れ回る怖いフレンズだとされ、みんなから避けられるようになった。
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