◯封印

※歌の歌詞はネクソン版の冒頭のプロローグ、漫画版けものフレンズ2に出てきた設定です。




これから一体どうしたら良いのか、研究者達の間で話し合いが行われた。その中で、アムールトラを休眠状態にし、セルリアンの結晶と一緒に隔離施設に封印する案が出された。

これによると、サンドスターには状態を永久に保存する働きもあるため、休眠で野生解放を停止させれば、彼女はいつまでも眠り続け、死ぬ事はないとされていた。

 

しかし非情な提案で、とても研究者達だけでは決められなかった。そこで、今まで隠されていた事実も含めて、パーク中に情報が公表される事となった。

 

すると、あっという間に大騒ぎになった。

これを聞いた誰もが反対し、「勇敢な彼女を、一人ぼっちにした挙句見捨てるのか」と、研究所には非難が殺到した。そんな中、計画(プロジェクト)の中心人物だった研究者が批判の矢面に立った。

その研究者は、これまでの経緯の詳細とアムールトラへの謝意をあらゆる場所で語った。その真っ直ぐな姿勢から、研究者達がアムールトラをとても大切に思っている事が世間にも伝わり、騒ぎはすぐに収まった。

 

なんとか別の道を探るべく、ヒトが集まって何度も検討が重ねられた。しかし他に方法が見つからなかった。

こうしている間にも、彼女に残された時間は短くなってゆく。

 

かくして、苦渋の決断だったが提案は受理され、アムールトラは結晶と共に封印される事になった。

 

 

そのための様々な準備が始まった。

その内の一つである隔離施設の建造がサバンナで進められる中、アムールトラが眠った後もそこへの出入りを希望する声がパークの内外から多数挙がった。しかしいつまた結晶が動き出すか分からない。

 

そのため、彼女の世話は施設内に設置されたコンピュータに託された。

これは彼女の様子を24時間カメラで見守り、手枷から送られて来るデータを基に、睡眠と体調の維持管理を自動的に行う。そして結晶を常に監視し、異変を察知したら、すぐさま彼女を目覚めさせるようプログラムが施された。

また、外部から操作される事のないよう、このコンピュータは完全に独立していた。周りにできるのは、無事を祈ることと、彼女を起こす時に発信される信号を受け取る事だけだった。さらに、万が一施設内部で何か別の危機が起こった場合に備えて、頑丈な檻も用意された。

 

だがセルリアンを倒した後、はたしてパークに彼女の居場所は有るのか?という問題が残されていた。

彼女が目覚めると同時に施設のロックは解除され、封印が解けるようになっていた。しかし、その時パークはどうなっているのだろう?強大な力を得た代償にフレンズとしての特性を失った彼女を、受け入れてくれるのだろうか?

 

これについて、フレンズとヒトとで話し合いが行われた。そして『どんな事があっても、私達は決してアムールトラを忘れない』という結論が出た。

 

それからフレンズ達は、毎日彼女の事を話題にするようにした。

ヒトは、彼女との思い出をできるだけたくさん集め、映像や文章で保存した。

それらはマジックショーが行われるはずだった会場に集められ、そのまま彼女の記念館になった。

 

一方研究所でも、数々の実験データだけでなく、彼女の身の回りを記した日記が多数保存された。

また、どれだけ通じるかは分からなかったが、研究者達は施設が完成するまでの間、体の状態や計画の推移、みんなの様子などをアムールトラに何度も細かく説明した。

 

彼女はというと、体への負担を減らすため、眠っている事が多かった。さらに実験の副作用で言葉を理解できなくなり、戦いと食事以外の事への関心も薄くなっていた。

それでも誰かが来た時は、うつらうつらしながらも話を聞いていた。そして声の雰囲気から、体の状態が悪い事と計画が良くない方向に向かっている事、そしてパークのみんなが自分のために頑張ってくれている事も、なんとなく感じ取っていた。これは彼女が動物だった頃から身についていた力だった。

 

 

 

月日が流れ、ついにサバンナの一画に隔離施設が完成し、セルリアンの結晶が運び込まれた。

そして数日後、とうとうその日がやって来た。パークのみんなが、アムールトラにお別れをするために施設に集まった。

 

やがて一台の車がやってきて、中から彼女が降りてきた。久しぶりに会った彼女はすっかり姿が変わっていて、厳つい手枷をはめて、全身からけものプラズムを放出させながら暗い顔をしていた。

アムールトラは檻の前に立つと、悲しげな顔をしているみんなを見回した。そしてその中に、涙を堪えながらこちらを見ているあの子を見つけると、申し訳なさそうな笑顔を彼に向けた。

 

それからアムールトラがゆっくりとした足取りで檻に入ると、コンピュータが作動した。すると檻の扉が閉まり、手枷から睡眠を促す信号が送られて来た。

彼女はあくびをしてゴロンと横になった。まぶたがだんだんと重くなり、意識が遠くなってゆく。そして最後に目に映ったのは、泣いているあの子の顔だった。それを見て、彼女は唇を『ごめんね。』と動かした。

 

みんなが固唾を飲んで見守る中、アムールトラのまぶたが完全に閉じ、規則正しい寝息が聞こえてきた。するとようやく、けものプラズムの放出が止まった。

それからフレンズ達は、一人ぼっちが嫌いなアムールトラが少しでも寂しくないようにと、彼女の周りにフレンズを模したぬいぐるみを飾った。その中には、あの大きなトラのぬいぐるみもあった。

これには、“目が覚めたらみんなでお祝いしようね”という気持ちが込められていた。また結ばれたリボンには、みんなのメッセージがびっしりと書かれていた。

 

あの子は目に涙を浮かべながら、思い出の品のスケッチブックを彼女のそばにそっと置くと、声を震わせながら叫んだ。

あの子「目が覚めたらまた一緒に遊んでね。絶対、絶対だよ!」

 

そして最後に、そこにいたみんなで歌を歌った。それは大昔、パークを作った神様が住人達に送った言葉だ、と言われていた。その歌詞には『決してあなたを忘れない』というメッセージが込められていて、綺麗で悲しい、けれど希望が感じられる、そんな歌だった。

 

とうとうお別れが終わり、みんなが俯きながら施設の外に出ていった。

そして扉がゆっくりと閉ざされ、ガシャン…というロックの音と共に、施設は封印された。

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