◯袋小路

しかし計画は行き詰まった。

 

まずアムールトラの状態が芳しくなかった。

実験の結果、彼女は自らの意思で野生解放を経てビースト化できるようになったが、度重なる実験で彼女の制御機能が弱まり、野生解放状態が解けなくなった。

また力の制御も難しいため、ひんぱんにサンドスターを補給しないとすぐに動物に戻ってしまうのだ。

加えて体に大きな負担がかかっているため、このままの状態が続けば、近いうちに死んでしまうかもしれなかった。

 

それを防ぐため、睡眠を促し緊張を和らげる機能がついた手枷が作られた。それをはめてからというもの、彼女は1日の大半を寝て過ごすようになった。

これにより、ある程度野生解放が抑えられ、体への負担が減った。だがそれでも、問題の根本的な解決には至らなかった。

 

さらにもう一つ問題があった。セルリアンのコアは結晶化し、どんな攻撃も受け付けなくなっていて、たとえビースト化したアムールトラでも破壊する事は不可能だった。

結晶が再び動き出すまで手が出せなかったが、それがいつ、どんな形で現れるのかは誰にも分からなかった。

 

数々のデータから、アムールトラの余命は◯年と推測された。このままではこの計画(プロジェクト)は、彼女を犠牲にするだけで終わってしまうかもしれない。

 

だが中断したとしても、彼女の野生解放は止まらない。となると体が持たない。かと言って動物に戻ってしまうと、記憶が失われ、彼女の今までの努力が無になってしまう。

失われるのはビースト化だけではない。親しい友人や思い出、あるいは技術や性格といった、これまで生きてきた中での彼女の全てが失われてしまうのだ。

 

それにセルリアンの結晶が残っている以上、他のフレンズが計画(プロジェクト)を引き継がねばならない。意志の疎通が難しいため確認する術が無いが、はたして彼女はこれを望むだろうか?

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