第2話 ◯ジャパリパーク
注)アプリ版とは違い、女王セルリアン事件が開園直前に起こっています。
?「こんなとこで寝てると風邪ひくよ。」
誰かの声がして、アムールトラは目を覚ました。
すると目の前に見た事のない動物がいた。その子は二本足で立っていて、袖のない白いシャツ、蝶ネクタイのついた襟巻きとスカート、それと長い手袋とソックスは黒い斑点模様のある金色で、黒いリボンが結ばれた白い靴を履いていて、お尻からは縞模様の尻尾が生えている。
穏やかな光に照らされた金色のショートヘアが風で揺れていて、前髪にはM字型の模様があり、頭の上にはひときわ目を引く大きな耳が動いていた。
?「びしょ濡れだね。あんな雨の日に泳いでたの?危ないよ。」
あたりを見渡すと、そこは見知らぬ海岸だった。
どうやら気絶している間に流れ着いたらしい。周囲には船の残骸らしき木片が散らばっていた。
「ここは…?」
突然口から聞いた事がない音がした。彼女はギョッとして起き上がると、咄嗟に両手で口を覆った。
『今の音は何?もしかして私が喋ったのか?』
それになんだか体がおかしい。恐る恐る手を見てみると、白くて華奢な10本の指があった。
慌てて体中を見回すと、あちこちが伸びたり縮んだりしていて、ヒトのような姿になっていた。
毛皮が生え変わり、上半身は白いシャツの上に赤とオレンジのチェック柄のジャケット、下半身はオレンジ色のハーフパンツに長いブーツとガーターベルト、首には真っ赤な蝶ネクタイと、まるでサーカス団員かマジシャンのような格好だった。頭を触ってみると、くせっ毛でボリュームのあるショートヘアになっていて、その上にはジャケットと同じ柄の小さなシルクハットがちょこんと乗っかっている。
すると目の前にいる金色の子が、不思議そうな顔をしながらまた話しかけてきた。
サーバル「ひょっとして、生まれたばかりの子かな?ここはジャパリパークのサバンナ。私はサーバルキャットのサーバルだよ!あなたは何のフレンズなの?」
「フレンズ…?何って、え…?」
彼女が戸惑っているともう一人、今度はオレンジ色をした誰かがやって来た。その子も二本足で歩いていて、金色の子と似たような格好で、つり目に尻尾に外ハネのロングヘアー、前髪には2つの黒い模様があって、やっぱり大きな耳をしていた。
カラカル「どうしたのサーバル…ん?誰なのこの子?」
サーバル「カラカル、ここで倒れてたんだけど、きっと新しいフレンズだよ。でもなかなかお話ししてくれないんだ。」
カラカル「見た感じ、あたしたちと似てるわね。もしかしてネコ科の子?あんた名前とか、どこから来たとか、何か覚えてる事ない?」
彼女は何も思い出せなかった。黙ったまま俯いていると、サーバルが彼女に手を差し伸べた。
サーバル「分かんなくても大丈夫。セントラルパークのヒトに聞けば、きっと教えてくれるから。私達が案内するよ!」
カラカル「そうね、一緒に行きましょ。」
彼女は困惑しながらもサーバルの手を取って立ち上がると、2人に連れられて歩き出した。
海岸からしばらく歩くと、あたりの様子が変わった。こちらの地面は短い草で覆われていて、ところどころオレンジ色の砂地が見えていて、ぽつぽつと低い木が生えている。
サクサクと草を踏みしめて歩きながら、2人はここの事を教えてくれた。
ここはジャパリパークという、広大な島に作られた超巨大総合動物園なのだそうだ。
世界中から集められた動物達が、火山から噴出したサンドスターという不思議な物質の力でアニマルガール、通称フレンズへと変わり、ヒトと一緒に暮らしているのだという。
サーバル「パークにはいろんなエリアがあって、フレンズは自分の好きな所で暮らしてるの。ここは私たちが住んでる、サバンナって所だよ。」
カラカル「今向かってるのはセントラルパークっていう、島の中心にあたる所よ。いろんな建物があって、沢山のヒトがいるの。毎日お客さんもいっぱい来るから、正直職員さん達の顔、覚えきれていないのよね。」
今でこそ大人気の施設だが、開園直前に大事件が起こったそうだ。
カラカル「事件の始まりは、研究所の副所長だったカコ博士っていうヒトが、女王セルリアンに食べられたからって言われてる。そいつは仲間と一緒に、この世界を全部食べちゃおうとしたの。」
その後の女王セルリアンの発言は、カラカルには理解しづらかったようで、説明もたどたどしくなっていった。
カラカル「そうしてあらゆるものをずーっときおく…ほぞん?さいげんだっけ?この辺はよく分かんないのよね。ま、とにかくたくさんのセルリアンが出てきて大変だったの。」
なんでもセルリアンというのは、姿も大きさも様々で、フレンズを食べて動物に戻してしまう怖い存在らしい。
それからサーバルが続けた。
サーバル「でもパークのみんなでやっつけたんだ。あと、セーバルっていう緑色をした、私にそっくりな子にも助けてもらったの。
事件が終わってからも一緒に遊んでたんだけど、いつの間にかいなくなっちゃったんだ。また会いたいなー。」
こうして全てのフレンズを巻き込んだ大事件は幕を閉じ、公にされないままパークは開園した。今のところ大きな問題は起こっていないが、たまに小さなセルリアンが現れるので、危険な場所だと考えるヒトもいるのだという。
話が一段落した頃、小高い丘が見えてきた。するとカラカルが、彼女の方を振り向いてこう言った。
カラカル「あの上に水飲み場があるの。ちょっと休んでいきましょ。」
丘を登ると大きな泉が現れた。透き通った水がキラキラと輝いていて、周囲には今まで歩いてきた所よりもたくさんの草木が生えていた。
3人は泉に直接口をつけて喉を潤した。乾いた体に冷たい水が染み渡り、彼女は生まれ変わったような気分になった。
ぐぅ〜〜〜。
するとお腹から大きな音がした。そういえば目が覚めてからここまで、何も口にしていない。
するとサーバルとカラカルが、毛皮からなにやら丸いものを取り出した。そしてそれを半分に割ると、ニコニコしながらそれぞれ彼女に差し出した。
カラカル「はい、これを食べて。」
サーバル「ジャパリまんっていうの、美味しいよ!」
しかし彼女は、おどおどしながら2人に尋ねた。
「こんなたくさん…いいの?」
カラカル「いいのよ。あたしたちはこれだけあれば十分だし、足りなくなったらヒトからもらう事もできるから。」
「ありがとう!」
3人は木陰でごはんを食べることにした。
彼女は2人からジャパリまんを受け取ると、口いっぱいに頬張った。それは美味しいだけでなく、食べたものがそのまま体になってゆくような不思議な感覚がした。
2人は彼女の両隣に座って、その様子を嬉しそうに見つめていた。そしてジャパリまんを食べながら、パークの食事についても教えてくれた。
ここでは普通の食事もあるが、ジャパリまんは理想的なサンドスター補給食品で、全てのフレンズが美味しく食べられるうえ、保存も効いて携帯にも便利な大人気の食料なのだそうだ。
こうして3人は水飲み場で一休みしたあと、再びセントラルパークに向かって歩き出した。
数時間後、3人はセントラルパークにたどり着いた。
そこは色とりどりの建物が並んでいて、どこも大勢のヒトやフレンズで溢れていて、歓声や音楽があたりいっぱいに響き渡っていた。
それらを見たり聞いていると、彼女はなんだかワクワクした。
キョロキョロしていると、2人から少し離れてしまった。
途端に頭の中に一人ぼっちという言葉が浮かび、とても怖くなった。彼女は慌てて追いつくと、はぐれないように2人の手をしっかりと握った。
すると2人は、彼女の方を振り向いて笑顔を浮かべた。
サーバル「大丈夫だよ、一人になんてしないから。」
カラカル「心配しないで。あたしたち耳が良いから、あんたの音は全部聞こえてるの。」
それを聞いて、彼女は心の底からホッとした。
3人は職員の事務所にやって来た。そこでは数人のヒトが忙しそうに歩き回っていた。その中に、机に向かっている眼鏡をかけた女のヒトがいた。そのヒトはサーバル達に気がつくと顔を上げた。
ミライ「あら、サーバルさんにカラカルさん、こんにちは。どうしたんですか?」
サーバル「こんにちは。ミライさん、この子が何のフレンズか分かる?」
ミライさんと呼ばれたそのヒトは、緑色の長い髪を後ろで束ねていて、探検家のような服装で、両端にそれぞれ赤と青の一枚の羽がついた帽子を被っていた。
カラカル「海岸で倒れてるのをサーバルが見つけたんだけど、何も分からないみたいなの。」
それを聞いたミライさんは、彼女の方を見てにっこりと笑った。
ミライ「はじめまして。パークガイドのミライです。少しあなたの体を見せてもらって良いですか?」
緊張していた彼女は、固い表情のまま無言でうなずいた。
ミライさんもうなずくと、眼鏡のフレームに手を当てた。するとレンズの色が緑色に変わって、細かい文字が現れた。
ミライ「それでは、顔をよく見せてください。…ありがとう。今度は手、それからゆっくり体を回して…。」
身長、耳と歯の形、毛の色と模様、手足の太さ、尻尾。ミライさんは一通り彼女の体を見終えると、顎に手を当てながらこう言った。
ミライ「ふむ、大柄なトラのフレンズさんですね。この模様の間隔と厚い毛皮はベンガル…いえ、おそらくアムールトラ。」
すると眼鏡から声がした。
眼鏡「解析終了。アムールトラダヨ。」
ミライ「思った通りでしたね。あなたはアムールトラのフレンズさんです。」
サーバル「よかったね、アムールトラ。」
カラカル「改めてよろしくね、アムールトラ。」
みんなから明るく挨拶され、アムールトラも笑顔になった。
アムールトラ「ありがとうサーバル、カラカル、ミライさん。」
それを聞いたミライさんは目を丸くした。
ミライ「もうみんなの名前を覚えてるなんて、賢いフレンズさんですね。
では、ここで暮らすにあたっての注意点はおいおい説明するとして、まずはパークでの生活に慣れてください。それからあなたが面白そうと思った事をどんどんやっていきながら、得意な事を見つけてくださいね。」
アムールトラは、元気よく答えた。
アムールトラ「分かった!ありがとう!」
こうしてアムールトラは、晴れてパークの一員となった。
彼女はとても明るくて快活だった。すぐにみんなと仲良くなり、ここでの生活にもなじんでいった。
彼女は誰かに注目されるのが好きで、体を動かすのが得意だった。
お友達に誘われて一緒にダンスや体操をやってみると、華麗な動きでみんなを驚かせた。
それに加えて手先が器用だった。ある日セントラルパークのイベント会場で、マジックショーが開催された。軽快な音楽に合わせ、きらびやかな衣装に身を包んだヒト達が繰り出す予想のつかない展開の数々に、アムールトラはすっかり心を奪われた。
そして自分でもやってみたいと職員に訴えた。後日簡単なマジックセットを貰うと、夢中になって練習した。
そうして覚えたマジックをみんなの前で披露してみると、フレンズだけでなくお客さんからも大好評で、すぐさま彼女は人気者となった。
腕前が上がってゆくにつれ、自分で新しいものを考えたり、大掛かりなものでもこなせるようになっていった。やがて彼女は、いつか自分も大きな舞台に立ちたいと夢見るようになった。
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