第17話
流れは停滞しつつあるが、
誰かこの二人にきちんとした反論をしてくれないか。
そう望んでいた所で男子生徒が手を上げた。
立ち上がったその身体は相変わらずおっさんっぽい。
しかし、以前とはなにか違っていた。
胸を張ったその姿勢は、だらしないというより貫禄のあるというイメージになっていた。
あまりにも急激な変化に、圧倒されてしまう。
珠之は億山の方を見て自慢気に鼻の穴をふくらませる。
億山はそれをみて渋そうに目を細めた。
「ふふふ、キミたちね。あれなんだよ。言うなればだね。君たちの言ってることは理想論にすぎないのだよ。ふふふふ。確かにパンチラはいいかも知れない。ポロリはいいかも知れない。嫌いな人間なんてどこにもいないさ。そこに気づいたキミは求道者だよ。だけどね、言わせてもらうならば、ふふ、そんなの机上の空論でしかないってことなんだよ。キミの言ってることは、高級フランス料理を食べられないくらいなら、何も食べないっていうのと一緒なんだよ。違うんだよなぁ。それは余裕のある奴の発言にすぎない。ふふ、勝者の発言でしか無いんだよ。ボクはね、いや、ボクたちは、若き中学生は飢えてるんだ。今にも死にそうなほど渇望してるんだ。そんな中で、これは最高の食べ物じゃないから食べるべきじゃないなんて言われたって聞けるわけないでしょ。どんなものでも、味がしなくてもいい。食べたい! 妥協してもいいじゃないか。理想通りじゃなくてもいいじゃないか。今腹を満たせるチャンスがあったら、それは食べるべきだよ。ふっはふふ。エロの欠食児童が飢え死んでいくのを君は見過ごすというのかね」
珠之がそう言って誇らしげに億山を見ると、億山は全然聞いてなかったかのように爪を気にしていた。
「ふふふふ、ニモミ」
珠之が億山にそう言って呼びかけると、億山は顔を上げてものすごい鋭角的な目で珠之を見ると、ペッとツバをはきかけた。
教室内でツバを吐くということがとんでもないことだ。
それ以上に、珠之と億山の席の間には三人くらい生徒を挟んでいて、億山のツバは散弾のように細かく霧状に飛び散ったものだから教室内は一瞬暴動が起きたかのようなざわつきをした。
芦疋野と公賀は、二人で教壇から珠之の机に向かう。
珠之は、予想外の展開にオロオロと顔を青ざめていた。
公賀が珠之の肩に手を置いて言う。
「俺が間違っていた。そして、お前も間違っている。
「そうだ。悪かった愛泉手」
芦疋野がそう言って頭を下げる。
「ヒヒフ、ボクはもう、もう……。こうなったら愛泉手に拝ませてもらわないと」
友情を誓った男たち三人は愛泉手に向かって頭を下げた。
男たちの熱い友情の芽生え、それがこんなに美しくないものだとは思わなかった。
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