第17話
放課後の視聴覚室。
あんな事件があったのに、会話の内容はドラマの話で脇役の誰々さんがすごいというマニアックな内容だった。
演劇部らしいといえばらしいし、高校生らしいとも言える。
ボクの頭の中は事件のことで一杯なのに。
ドアが大きく開き、敷居またいで制服に黒い大きなリボンを付けスカートの下には何重にもペチコートを履いた
胸に手を当てて顎をクイッと上げて見下すように言う。
「
すぐにミッシェルが飛びついた。
「大丈夫なので?」
「もちろんですわ。暗き雨の日も冷たき風の日も。地獄の日も極楽の日も。清く妖しく麗しく、民草の魅惑の偶像なのですわ」
アイドル志望と聞いていたけど、思っていたようなキャピキャピした感じではなかった。
ただ、今どきのアイドルは個性が重視されるから、そういうキャラ作りをしているのだろう。
見た目は、こう言っては何だけど特別可愛いというほどではなく普通の女の子だ。
動作ごとにバネのようにビヨンビヨンと揺れる縦ロールはなかなか目を引くが、ちょっと目が離れて鼻が丸い。
美人というより愛嬌のある顔立ちではある。
ずっとひっかかっていた異界と交信という言葉も、彼女の服装や立ち振舞をみれば納得がいく。
いわゆるゴシック系の中二病というやつだろう。
自分を特別な存在として振る舞いすぎるために、周囲から浮いてしまうタイプ。
アイドル志望というのも、その自意識が肥大しすぎた成り行きと思われる。
「暗黒の窮地は白金の好機ですわ。この絶望の谷を乗り越え、登美姫は魅惑の偶像道を一歩一歩上り詰め、そして近々キング・オブ・アイドルになりますわ」
「キングじゃなくてクィーンじゃないのか」
ボクがそう言うと儀武院は、キッと眉を怒らせ歯を向いてこちらを睨んだ。
顔を歪めてわなわなと唇を震わせる。
「なんですの? あなた一体誰ですの? キング・オブというのは古代異界語で最高に美しいという意味で、別に間違ったりしたわけじゃないんですわ! そんなことも知らないでよく登美姫の前に現れやがったですわね!」
「おかえりお姫様。やっぱりアイドルがいると部屋の明るさが違うね」
神藤が大げさに手を広げて振る。
「そのとおりですわ。闇の眷属たる登美姫が来たからには、黒い波動で人々を照らし、導いてあげるのですわ」
「明るいんだか暗いんだかいまいちピンとこないな」
独り事として、思わずつぶやいてしまったボクに、儀武院は肩を怒らせる。
「なんですの? なんなんですの? さっきから登美姫の邪魔ばかりして。今度言ったら闇の、あの、技のやつで死んでも知らないからね!」
自分でも思うように語彙がでてこないのが悔しいのか、口をパクパクとさせて顔を赤くした。
確かに個性的だ。
顔自体は、大型の草食動物を思わせるのっぺりとした印象ではあるが、つぶらな瞳を大きくみせるためにアイラインやつけまつげの努力が見られる。
設定の練り込みの甘さや、キャラとの一体感も、本人が一生懸命手作りした感じが出ていて微笑ましい。
おそらく苦手な人も一定数いるだろうけど、ボクはどうしても嫌いになれなかった。
ボクも、ヒーローに憧れながら、誰もが認めるようなカリスマ性も、身体能力もない普通の人間だ。
自分が普通であることを認めれば認めるほど、どこか一発逆転の特別さがあるんじゃないかと焦がれてしまう気持ちは痛いほどわかる。
儀武院が異界から来たアイドルなのも、ミッシェルが海外から来た忍者なのも、どこかで親近感を持ってしまう。
ボクは儀武院の前に出てなるべく穏やかな表情で声をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます