108節から114節

108 井戸本組、絵幡蛍子

 何と騒がしいのだろう。今この瞬間は静かになったが、先程までは明らかに、そして恐らく一階で、戦闘が行われていたようだ。そして、いつまで経っても、奴ら、那賀島達や周達がこの辺りへやって来る気配がない。どうした? まさか、一階で彼方組と戦闘しているのか?

 同じようなことを訝られたと思しき井戸本様は、端末を弄られるなり、衝撃を受けたような声で、

「これは、どういうことだろうか。」

「何事でしょうか?」と続橋。

「那賀島や周が居なくなっている。」

 私は駈けよって、井戸本様の端末を覗き込んだ。確かに、見慣れた名前しかそこに並んでいない。

 潰れたような声で私は呻いた。

「これは、何事でしょうか。まさか、奴らの全滅?」

「どうだろうか。しかしとにかく、両リーダーが消滅している以上、彼らに聯絡をとることは不可能だ。ああ、失敗したなこれは、多少面倒でも、彼ら全員と登録を行っておくべきだったか。」

 我々は縄手が殺された後手近な教室に身を潜め、そして話しあっているところだった。私は反射的に自分の端末を操作する。今しがた井戸本様のそれを覗き込んだ筈なのだが、それでも不安だったのだ。……ああ、良かった。綾戸も綱島達も全員無事のようである。

「どうでしょうか。取り敢えず奴らの塒にいるであろう鉄穴凛子を討ちに向かいましょうか。」

 その続橋の提案に私は反駁した。

「駄目よ、続橋君。彼方組の中での聯絡が行われている可能性がある以上、十中八九、鉄穴は手厚く守られているし、もしかしたら、場所を移されているかもしれない。」

「何故?」

「これは以前綾戸がしたのと同じ議論になるけれども、しかし、総勢十五名の襲撃を受けたと奴らが把握しているのであれば、大事な鉄穴を死守しようとするのがやはり当然でしょう? そしてこの人数での襲撃が闇雲に行われる訳ないのだから、ある種の計画の存在する気配を奴らは嗅ぎ取る筈。となればやはり、塒の位置も我々に知られていると奴らが想像するのが自然よ。故にこちらから塒に飛び込むのは、徒労に終わる可能性が高く、そしてとても危険なの。」

「成る程。では、全うに戦うしかないのか? 物音からすれば、彼方組の奴らの内の何人かが、すぐ下の一階で交戦しているようだが。」

「いや、少なくとも今すぐ一階に降りるのは止めておこうではないか。もしかしたら、那賀島組や周組の〝残党〟が頑張って彼方組へ打撃を与えてくれるかもしれない。わざわざこちらから危険地帯に踏み込む必要はないだろう。

 また、今絵幡君は、鉄穴が他所に移されていると言ったが、しかし、に過ぎない。確実ではないのだ。前回の対彼方戦の時には、逃げるか鉄穴を叩くかという選択、すなわち生きるか死ぬかという選択であった以上、無理をする訳にいかなかったのだろうが、しかし今回は違う。これからどこかを攻撃すべきではあるのだが、それが定まっていないという状況だ。この選択においては、それぞれ選択肢の孕むリスクに差はない。故に私は、まず、その彼方組の塒がある筈の場所に向かってもよいと思うのだ。もしかすると、奴らはそのまま鉄穴をその部屋に置いているののだから。」

 私は素直に訊ねる。

「しかし大丈夫でしょうか井戸本様。奴らが、その塒に全戦力をおいて待ち構えているという可能性も。」

「それは少々非論理的な心配だろう、絵幡君。下階で彼方組による戦闘が行われていたらしいということと、先程いきなり二名の銃手に出会したこと。いずれも、寧ろ塒が手薄であることを示唆している。恐らくは同士討ちを恐れて散らばっているのだろう、銃による攻撃はどこまでも飛んでいってしまうからな。」

「成る程。」

 押し黙った私と続橋を眺めてから、井戸本様が仰った。

「反論がないのであれば決まりだ。今は、彼方組を叩くまたとない好機であり、そしてまた、既に我々は縄手君を犠牲にしている。戦略的な意味でも、そして何より彼女の魂の為にも、退くことは有り得ない。これより、その塒と思しき教室に向かおう。ただし、慎重に、な。」


 我々は、幸いにも誰とも遭遇しないまま、その教室の前に辿り着いた。道中、綱島のカメラで見せられた水場と思しき場所に遭遇したが、成る程、確かにそこから間近の教室だ。少なくとも、綱島のもたらした情報は確からしいのだろう。少なくとも、あの時点では。さて、今となってはどうか。

 私は画板で自分の身を庇いながら、その教室の扉を慎重に開け、数歩侵入した。ぱっと見たところ、誰も居ない。後続の二人にもそれを手振りで伝え、三人揃って中に入り、慎重に戸を閉める。本当は鍵もかけたいのだが、このサバイバルの会場では全ての錠前が破壊されているので叶わない。逆に言えばそのお蔭でここに侵入出来たとも言えるのかもしれないが。(扉は破壊禁止物品だ。壁はそうでないあたり、間抜けたルールな気もする。)

 私達は教室の中を見回した。普通の、四十人学級に相応しそうな広さで、後方には、心太の天突きのように見える不愛想な空洞が蜂の巣の如く居並んだロッカーが、肩ぐらいまでの高さで左右に拡がっており、前方には、ノートを取るのが嫌になりそうなくらいやたら大きな黒板と、妙に高いので慣れぬうちは蹴躓きそうな教壇とがあった。机や椅子の類は、明らかに広さに見合わぬ数しか揃っておらず、成る程、まるで誰かが生活の為に、何もなかった場所に適当な椅子や机を持ち込んだようにも見える。あるいは、適当な数のそれらを残してどこかへ運び去ったか。

 私は、誰かが潜んでいないかを一応確かめようと、更に観察を続けた。収納具の類は、先程言及した天突きロッカーしかなく、そこに蓋はないし、そもそも大きさからして人が入れるようには思えない。こういうところに誰かが潜んでいることは有り得ないだろう。やはり鉄穴は移動しているのだろうか、私がそう思いながら、他に怪しい箇所が教室内にないか探ろうとすると、突然、音が、

 私は顔の血の気を失いながら、その音の方、教室の扉が開かれた方へ振り返った。そうして見えたのは、さっき見た背の低い男と、そして、そいつが抱えている銃。私は飛び出した。これ以上、誰も殺させるものか。

 しかしそいつは、我々の方へ向けていた銃口を、明後日のほうに外した。駈け寄りつつ訝る私の前で、その男はそのまま、引き金を引く。大きな音が、上から聞こえた。

 私が振り返ると、既に、井戸本様や続橋の立っているあたりの天井に大穴が開いていて、瓦礫と、無数の机や椅子がそこから、雨霰のように、

「井戸本様!」

 私はそう叫んだが、しかし、駈け寄るべきでないということを、ぎりぎりのところで承知していた。そう、私が今すべきは、それではない。

 私は再び振り返り、そうして目の前に来る、彼方組の銃手に向かって飛び込んでいった。案の定、次弾の発射準備を終えていたらしいその男は、丁度銅座の時のように、私の聖具の突進に戦き、存外機敏に、身を翻して逃げていく。教室を出た先の廊下でもその男の背中を見送り、角を曲がって見えなくなっても跫音が途絶えないことを確かめてから、私は再び、教室に戻ろうとして、躊躇った。僅か振り返って三歩進むだけのことだが、この上なく足が重い。だって、私は聞いたのだ。上から何もかもが降り注いでくる音と、そして、肉が潰れるような音と、まるで、たった今潰されたかのような呻き声を。無論これらはまともに聞いた経験などないし、過ぎたことだから、多分に勘違いが含まれる可能性がある。しかし、今確かに聞こえているものはどうだ。これは聞き憶えがあるぞ。あの日、豆腐に飲まれた泥鰌達が弱々しく漏らしていた呻きに、今聞こえている忌まわしいものが、あまりにもよく一致するのだ。私は、巨大で透明な感情に襲われて、どうしようもなく、顎を顫わせ、まるでそれを砕こうとしているみたいに奥歯を激しく打ち合わせた。足が竦んで動かない。

 どれくらいそうして情けなく佇んでいたのかは分からないが、とにかく私は、水飴の海の中から搔い出るような凄まじい努力によって何とか回れ右をし、教室の中に踏み入った。

 私は見た。そして、絶望した。

「あはは、はは、はは、はぁはは、」

 気味の悪い笑い声が勝手に口から飛び立っていく。私は勝手に膝を突き、勝手に肘をも突いた。床しか見えないが、十分だ。だって、どうせ見上げたって、生物学的定義上の意味で、生と死の狭間を彷徨い、そして、二度と生の側には戻ってこない、井戸本様と続橋の、無残な姿を見るのみだ。瓦礫や机に飲まれるその血塗れ姿は、まるで、まるで、

 私はしばらく身を起こすことが出来ず、そのまま壊れた玩具のように只管笑い続けた。


109 葦原組、躑躅森馨之助

 あの、橋が落ちたD棟を見てそれを思いついた俺は、階段などの聯絡手段を全て破壊した上で最上階に引きこもるという、何故これまで思いつかなかったのか自分に腹が立つくらいの作戦を実行に移している訳で、比較的安穏に暮らしていた。勿論、こんなことを普通の奴がやったらいつか食料が切れて――缶詰めだとか、乾物だとか、日もちがするものは自動販売機のラインナップに存在していない――間抜けに飢え死ぬことになるが、しかし俺だけは別だ。どうしようもなくなったら、聖具を頼りにして窓から飛び降りればいい。勿論、そんなことをすれば俺も元の階に戻れなくわけだが、別に、棟は他にも沢山ある。少なくとも全部使い切るまではこの作戦を続けてやるつもりだった。もう大分人数も絞れてきたし、運が良ければそうして凌いでいるうちに決着がついてしまうかもしれない訳だから、惜しむ理由はないだろう。

 かくして今の俺は、マンションなりホテルなりのフロア丸ごとを借り切った金持ちみたいな、豪勢な気持ちで悠々と過ごしていた。家具調度品の一般はあまりに不足していたが、しかし、どこに行っても敵がいないという事実は、この上ない幸せと安堵を俺に与える。これで、ここに冷蔵庫でもあれば完璧だったのだが、ないものは仕方ない。いちど家庭科室で冷蔵庫を見かけたが、見事に破壊されていたしな。――そもそもあんなでかいものなど運び込む気にならんわけだが。

 しかしふと、この完璧だと思われた籠城作戦、そこまで完璧でもないような気もしてきている。さっき馬鹿みたいに大きな音がしたもんだから、そこら辺の部屋を順繰りに巡ったところ、ある教室の床に馬鹿みたいな大穴が開いているのを見つけたのだ。おいおい、なんじゃこりゃ。この部屋には異常な数の机や椅子が運び込まれていたから、何かあるのかとは思っていたが、まさか、これで下にいる奴を押し潰しでもしたのかよ。いや、まあ、その試み自体はどうでもいいが、しかし、下から床をぶち抜いてくるとんでもない奴がこの棟にいるというのは、少々困る。たまたま俺がその上で寝ていたらどうするんだ。

 つまり、この最上階籠城作戦は、期待するほどは完全無欠でなかったということになってしまった。そりゃまあ、何でもないフロアをぷらぷらするよりはずっと安全な筈だが、しかし、自分の足許が覚束ないというのは心臓に悪い。

 とにかく、こういう馬鹿げた奴、天井をち抜く奴が居るこの棟からは早い内に撤収した方が良いのかもしれない。ここから逃げさえすれば、発想の意味でも、実力の意味でも、こんな無茶なことをする奴は他にそうそう居ないだろう。

 ふと俺は、この乱暴な作戦の成果、つまり、天井をぶち抜いて物体を落下させるという所業の成果が気になった。ここまでの手間と騒ぎを厭わないということは、余程の自信があったのだろうから、さぞかし上首尾に終わったに違いない。

 俺は、まるでそこから蛇の化け物が出てくるのを警戒しているかのように、おずおずと大穴へ近づいて、しゃがみ、慎重に首を突き出して、下の部屋の様子を窺った。……ん? これはひょっとすると、好機か?

 少し躊躇したが、しかし、こんなチャンスはそうそうあるまい。しかもこの棟はどうせ捨てるつもりなのだ。俺は飛び降りた。


「よう。」

 俺は飛び降りた先の教室で、馴れ馴れしく声をかけていた。娑婆にいた頃、初対面の女にこれほど親しげにしたことなどあっただろうか。

 その、蹲っている女は、顔を上げ、ぐずぐずの泣き顔を露にすると、すぐに叫び声をあげつつふためき出し、脇に置いていた板っ切れを拾いつつ、立ち上がろうとしている。させるか、馬鹿め。俺は、瓦礫の山から降り、蹴り殺す為にその女へ近づこうとしたが、しかし、

 忙しない跫音が聞こえ、何故か開かれたままのドアに人影が二つ現れた。その内の片方、女の方が、

「絵幡! 大丈夫!?」

 そしてその女は、地べたで腰を抜かしているさっきの女エバタから、俺の方に視線を向けなおすと、その眉根を寄せて、口を歪めて、敵愾心を露にした。おいおい、お仲間の登場か?

Squeezeskwíːz!」

 ……は? スウィース? その女が叫んだ言葉は全く意味が分からなかったが、とにかく、俺を攻撃しようとしていることは明らかであり、ならば、今アイツの構えているカメラが、攻撃手段なのだろう。カメラで攻撃……ん? まさか!

 以上の思考を、自分でも驚くほどの、最早非言語的なスピードで済ませた俺は、急いでその女に背を向け、教室の窓に向けて駈け出していた。

Shootʃuːt!」

 俺は目を瞑りながら跳ね、窓に向かって足から、正確には、聖具たる靴から飛び込んだ。その次の瞬間には、背後からでも瞼をいくらか貫いてくる凄まじい光が俺を襲い、俺はまるで、後ろからその光子に押されるようにして外に身を放り出す。硝子をへし割った感覚など、覚えている暇がなかった。

 泥濘んだ地面へ無事着地した後、安いネオンサインみたいにぴかぴかな光が虚ろに浮かぶ視界を、その窓の方に差し向ける。あの女は追ってこないようであった。いくら二階とは言え、万が一にでも怪我出来ない以上は決して飛び降りてこない筈であり、また、俺のことよりもあの泣き面女の方が大事であることは自明の理であるから、追われないことは半ば分かっていたが、しかし、それでもそう確認出来ると安心してしまう。ああ、しかし、あの女が健気に階段を降りてくる可能性はゼロではないか。

 俺は別の棟に向かって走った。クソったれ、大分食料を置き去りにしてしまったぞ。


110 彼方組、鉄穴凛子

 怖い。怖い。動悸が止まらない。息が、上手く出来ない。早く、早く帰ってきてよ、皆! 助けてよ、怖いよ、鏑木!


111 逸れ、簑毛圭人

「どうやら、この階は静かになったようだね。しかも、外も雨が上がっている。」

「あんなに酷い雨でも止むものなんだね。まあ、当たり前か。」

「ねえ箱卸さん、このあたりは静かになったみたいだけれども、しかし、まだ二階の方は騒がしいままだ。これは、ここから逃げろと天が言っていると思うのだけれども。」

「天? 圭人君って、某かの信心でもあるの?」

「いや、物質、あるいは気象的な意味。ようは、空模様のことだよ。」

「まあ、そういう意味だとは思ったよ。とにかくそれに賛成。とっとと別の棟に移ろう。」


 僕と箱卸さんは、教室を出て廊下を進んだ。道中見つけた男女の死体を、踏まぬように乗り越えようとしたその瞬間、

「ねえ圭人君。」

「何かな?」

「これって、傘だよね?」

 僕は彼女が指し示したあたりをよく見た。黒い、高級感の溢れる傘が、気の毒なくらいに歪んだ形状で転がっている。

「ああ、そうだろうけれども。」

「じゃあさ、もしかしてこの女の方って、周組の奴なのかな。」

 僕は成る程と思い、その、ブラウン管の向こうでしか見たことないくらいに綺麗な顔立ちをしていたと思しき――鼻の辺りが恐らく戦闘で歪んでいる憾みが、僕の感想を過去形にした――女性の右腕を摑み、まだ然程冷たくないことによって逆に薄気味悪くなりながら端末を弄った。

『周響子: 死亡。装着者の死亡により操作出来ません。』

 僕は死体を手放しつつ言った。

「ねえ箱卸さん、アマネって、どういう漢字を書くのだっけ。」

「歯周病のシュウ。」

「もう少しマシなたとえはないのかな。」

「じゃあ、周期表のシュウだね。」

「まあ、とにかく、君の想像通りだったよ。この人は周組の人間、というか、周その人だ。」

 言い出した筈の彼女は驚いて見せた。

「周響子本人? それは、凄いね。」

「どういう意味?」

「あ、いや、子分というか、周響子に従う連中の誰かなのかなとは思ったけれども、まさか、ボスがやられているとは思わなくて。

 でもとにかく、これは凄いことかもしれないよ。周響子が一人きりでここに倒れていて、しかも、それを弔おうとした形跡も一切ない気がするんだ。」

 僕は、鼻から血を流したまま、それが誰にも拭われていない周の顔を見て同意し、

「成る程、それで?」

「と言うことはさ、きっと周響子は誰にも助けられずに一人で戦ったと思うんだよ。共に最期まで戦った子分の死体が転がっていないし――そこの、へし折れた箒の脇に転がっている方は、男だから明らかに違うよね?――また、この場での戦いを生き延びた後に親分を悼もうとした子分が居た形跡もない。つまり、生き延びた子分、死んだ子分、どちらもこの場には居なかった筈だよね。」

「かもね。」

「ならさ、もしかして、そもそも周組が全滅しているんじゃないかな。そうでもなければ、親分を一人で戦わせないと思うんだ。」

 僕は少し考えてから言った。

「早合点かもしれないよ。事実竿漕さんは、仲間が――数え方による訳だけれども――二人ないし四人居たのに、孤立し、殺されてしまった。」

「何言ってるのさ圭人君。美舟さんと周じゃ話が全然違うよ。かたや、只の構成員で、かたや、〝ジャック〟を含めた部下を束ねるリーダーなんだ。周組の気味悪いくらいの結束は名高かったから、やっぱり、そんな奴らが周響子を望んで孤立させたとは考え難いよ。」

「成る程。では、君の言う通りに周組が全滅していたとすると?」

「もしそうだしたら、凄い話だよ。だって、これで〝ジャック〟によって大量のポイントを荒稼ぎしていた筈の周組が消滅したんだよ。つまり、アイツらが大量のポイントにかまけての安全策をとり続けて、こっちが困ってしまう可能性がなくなったんだ。まあ、私の推測が当たっていればの話だけれどもね。」

 僕は少し首を振ってから言う。

「違うよ、箱卸さん。仮に君の予測が当たっていても、そうはならない可能性が高い。」

「何で?」

「周組が実際に全滅したのであれば、当然、誰かが全滅させた訳で、つまりそいつらは周組の保有していた大量のポイントを引き継いでしまうよね。」

 箱卸さんは、参ったように口に手を当てた。

「あ、そっか。結局、ポイントが天下を回ってしまうんだね。ええっと、これを回避するには、」

「僕達が、存在するならば周組の生き残り、それが存在しないのならば、周組を殲滅した人間、どちらかを討つしかない。まあ、至難だろうね。つまり、君の言う、どこかの連中が大量のポイントに物を言わせるという事態はほぼ不可避となるんだ。対策を考えた方がいいだろうね。」

 彼女は頷いて、

「そうだね。でもまずはここを出ようよ。ちょっと不用心に長話し過ぎた気がする。」

 僕達は廊下を進んで出口に向かった。


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113 欠番


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