第18話「思わぬ出迎え」

「――着いたぁ!」


 一年生の宿舎に着くと、珍しくもラクスが嬉しそうに飛び跳ねる。

 命に関わるほどの怖い思いをしたのだから安心したのはわかるが、少々子供っぽいと思ってしまった。


 ラクスは俺とニーニャにジッと見つめられている事に気が付くと、恥ずかしそうに顔を赤く染めて顔を逸らしてしまう。

 その態度は少しかわいかった。


「喜んでるとこあれだけど、先生のところに行かないといけないよ」


 今日起きた事は全て報告しないといけない。

 ホワイトオオアナコンダに襲われた事もそうだが、リーダーが食べられた事は報告の義務がある。

 他のメンバーも戻っていなければ食べられたと仮定するべきだろう。

 報告して何を言われるかわからないが、中々に気が重たい物だった。


 しかし、俺はこの後自分の考えが甘かった事に気が付く。

 それは、背後から掛けられた声で始まった。


「――その必要はないぞ」


 聞こえてきたのは、長い間使われてきたからかもう掠れてしまっている老人の声。

 だけど声には不思議な重みがあった。

 後ろを振り返れば、木で出来た大きな杖を床に付き、俺たちをジッと見つめる白髪の老人が立っている。

 その後ろにはこの学園にいるほとんどの先生が集まっているのではないかというくらい、多くの先生たちが立っていた。

 皆、利き手には杖を持っている。


「学園長……もしかして、俺たちの捜索に出ようとしてくれていたのですか?」


 先生方の格好を見た俺は、学園の長――目の前に立つ老人、学園長へと尋ねた。

 しかし、学園長は俺の質問には答えず、杖をまっすぐに俺へと向けてきた。

 その目には明らかな敵意が込められている。


「何、を……?」

「のぉ、シュナイツよ。お主、よくのうのうと学園に戻ってこられたのぉ?」


 学園長は怒りを隠しきれない様子で俺の顔を睨んでいる。

 他の先生たちも同じだ。

 俺に対して怒りの表情を向ける者や、逆に怯えた表情を向ける者ばかり。

 まるで敵と相対しているかのようなピリピリとした雰囲気を纏っていた。


 空気の異変に気付いたニーニャが庇うように俺の前に立とうとするけど、彼女が間に入ってしまうと余計にややこしくなるため俺はニーニャの手を握り後ろに行かせた。

 一つ気になるのは、学園長たちがイレギュラーな存在であるニーニャを気に掛けた素振りがないという事だ。

 もちろん生徒全員の顔を覚えているはずはないけど、生徒の服装をしていない者がいれば違和感を覚えるはず。


 それにニーニャは変わった服を着ているし、可憐な容姿をしているせいで目立ちもする。

 そんな彼女に一切を気を向けず、俺にだけ怒りのような感情を向けてくるのはなぜだろうか?


 思い当たる節としては、リーダーたちを助ける事が出来なかった事だ。

 だけど学園長たちがどうしてその事を知る事が出来た?

 何より、責任云々の追求をされたとしても、全員が全員こんなにも怒りや怯えを含んだ表情で俺を見てくる事はないはずだ。


 いったい、俺がいない間に何が起きたんだ……?


「――やっと帰ってこられたと思ったら、随分なお出迎えではないですか、学園長。この行い、ミュンテ家に牙を向けるという事でよろしいですか?」


 突如、殺気立つ廊下に響く澄んだ声。

 俺と学園長の間に体を割り込ませたのは、先程まで浮かれていたラクスだった。


 いくら学園長といえど、貴族として位の高いラクスの事は無下に扱えない。

 ミュンテ家を敵に回すという事は、ミュンテ家に付く多くの貴族を敵に回すという事になる。

 ラクスは、その覚悟があって今自分たちに敵意を向けているんだな、と学園長に問いかけている。


 しかし、学園長はラクスに対して信じられない言葉を口にした。


「そうか、やはりミス・ミュンテは操られておるのか」と――。

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