第9話「死にたいの?」
《――んっ、よく頑張った。そこを右に曲がればニーニャの元》
いったいどれだけ走ったのだろう。
ずっと走り続けていたため時間感覚がなくなっている。
さすがに長時間走り続ければ疲労は溜まってしまい、そろそろ限界がきそうだった。
俺の体力が尽きる前にたどり着いて本当によかったと思う。
「はぁ……はぁ……もう着くみたいだ……」
「本当にモンスターと出会わなかったわね……」
ここに来るまでモンスターと一切出会わなかった事に、ラクスは驚いた様子を見せる。
ニーニャは約束通り安全なルートを俺たちに提供してくれたようだ。
それだけで、俺の中ではニーニャの信用度は上がる。
少なくとも彼女と合流出来れば安全に学園へと帰れる予感があった。
問題は、彼女が俺たちを呼んだ事にある。
この能力があるなら安全に俺たちを学園に案内する事も出来たはずだ。
それなのにわざわざ南の森の奥に呼ぶなど、彼女自身が俺たちを必要としているという事だろう。
そもそもどうして南の森の奥にいるのか――だが、まぁ会ってみればわかる事だ。
目的地に到着して安心した俺は、いつもの落ち着きを取り戻し思考がクリアになっていた。
後は声の主と会えば一気に状況は好転するだろう。
「さて……鬼が出るか、蛇が出るか――」
俺は意を決して言われた場所を右に曲がる。
すると、目に入ったのは――
◆
「おいおい、嘘だろ……」
あまりにも予想外の光景に俺は頭を抱えたくなる。
これでは助けを求めに来たのか、それとも助けに来たのかわからなくなるような状況だ。
「いったい何が……いや、それよりもこの子は人間じゃない、よな……?」
結晶に閉じ込められているからわかりづらいが、おそらく水色をしている髪からは二本の角が生えている。
そして背中からは同じく水色をした羽が生えており、獣人とはまた違う細くて歪な形をする水色の尻尾を生やしていた。
何処からどう見ても人間ではないように見える。
「この子はいったい――って、おい!」
結晶に閉じ込められている少女の姿に疑問を抱いていると、バッと後ろからラクスに手で目を覆われてしまった。
そのせいで目の前が真っ暗になってしまい、何も見えなくなる。
「前が見えないじゃないか!」
「えっち! 女の子の裸をジロジロ見るだなんて何考えてるの、この変態!」
何を勘違いしているのか、俺におんぶされているラクスが怒りながら俺の頭を叩いてきた。
バシバシと何度も叩かれ、頭が凄く痛い。
「な、何を勘違いしてるんだよ……! 俺はただ、この子の姿が気になって――」
「うわっ! 裸が気になってるって認めた! この変態!」
「話を聞け!」
更に勢いを強めて叩いてきたラクスを俺は背中から下ろす。
このまま後ろから叩かれ続けるのは敵わないからだ。
しかし、相変わらず強く抱き付いてきているのかラクスは俺から手を放さなかった。
おかげで俺はバランスを崩してしまい、ラクスを押し倒す形で地面に手を着いてしまう。
誰かに見られる心配はないが、傍から見れば俺がラクスを襲っているようにしか見えない格好だ。
「あ、あわあわ……!」
「お、おい、ラクス……?」
組み敷いてしまっていると、ラクスが自身の髪色のように顔を真っ赤にして目を回し始めた。
もしかして今ので頭を打ってしまったのだろうか……?
「おい、大丈夫か!?」
さすがにまずいと思い、俺は慌ててラクスを抱き上げる。
そして顔を覗き込んでラクスの事を心配したのだが、なぜか顔を両手で隠されてしまった。
「…………? おい、どうしたんだよ……?」
「うっしゃい、ばか。こっちみりゅな」
やばい、どうしよう。
今のラクスは舌が回らないようだ。
見た感じ元気そうだが、症状は思ったよりも重いらしい。
早く医療師に見せないと手遅れになるかもしれない状況だ。
しかし、この状況を切り抜けない限り医療師に見せる事なんて――。
《……死にたいの?》
明らかに様子がおかしいラクスに気を取られていると、ふとここに案内してくれた声が聞こえてきた。
だが、その声は先程までと何処か違う。
――そう、さっきより数段声が冷たくなっている気がしたのだ。
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