第3話「遊び」
森巡りのルートは大きく分けて二つ。
西門から出て北門を目指すルートと、東門から出て北門を目指すルートだ。
道中他のチームと合流しないように前のチームが出発してから三十分後に出発するらしい。
制限時間は一時間。
この学園の敷地はかなり広いため、次の組を待っていると絶対に制限時間内ではゴールにたどり着けない時間が設定されている。
そして道中モンスターとの戦闘も避けられないそうだ。
森に棲むモンスターの中には人間を見つけると襲いかかってくる種類もいる。
そんなモンスターと遭遇した場合は、六年生たちが前に出て戦うようにと指示があった。
俺たちの出発は最終組。
一学年四クラスあり、それぞれ三十名の生徒がいる。
そのため現在出来ているチームは四十組だ。
朝八時に先頭が出発したとして、俺たちの番が回ってくるのは十時間後。
つまり、十八時頃の出発となるわけだ。
幸いこの時期は太陽が昇っている時間が一年でもっとも長い時期なため、十八時になろうとまだ日は出ている。
タイムリミットが十九時という事を考えても危険はないというのが学園側の判断だ。
しかし――。
「最終組とか、最悪すぎでしょ……」
俺が考え事をしていると、いつの間にか隣の席に座っていたラクスが机に伸びながら独り言を呟いた。
貴族なのにその姿勢はどうなのか、と思いはするが、ラクスが愚痴を言いたくなる理由もわかるため特段何かを言うつもりはない。
というか、俺も考えていた事は同じだ。
辺りが暗くなる前に校外学習を終える事が出来るとはいえ、スタートの時間まで空き教室で待機なのだ。
最初にスタートしたチームはそれだけで今日の授業は終わり、後は自由時間になる。
残りの者は自分の番が回ってくるまでずっと気を張っていないといけないのだ。
正直精神的疲労度がかなり違うだろう。
六年生は何かしらのテストが行われているようで若干殺伐としているし、一年生たちは初めてモンスターと遭遇するかもしれないという事で緊張をしてしまっている。
お世辞にも心地のいい空間とはいえない雰囲気だ。
その点を見れば、やはりラクスは凄いのだろう。
この雰囲気の中平然としているし、モンスターと遭遇する事に怯えを抱いている様子もない。
確かこの学園に入る前からある程度は家で鍛えられていると言っていたな。
普段の授業でも周りより頭一つ分抜き出ているし、ラクスが得意とする火属性の魔法では上級生たちにも劣らないと教師陣は言っていた。
それほどの実力を持っていれば、こいつが天狗になるのもおかしくはないのかもしれない。
「ねぇ」
「ん?」
相変わらず机に伸びてしまっているラクスを横目で見ていると、俺とは反対方向を向いているラクスがそのままの姿勢で話し掛けてきた。
ラクスが俺に対して普通に話し掛けてくる事は珍しいため、余程暇を持て余しているのだろう。
悪意的に接しられるのでなければ、いくら普段馬鹿にされていても邪険に扱ったりはしない。
その辺の切り替えは大事だ。
「もう一人は何処に行ったの?」
もう一人とは、同じチームになったお調子者のカルラの事だろうか?
六年生だとしたら一人ではないし、そもそも『六年生』と呼ぶだろうからな。
「さっき、六年生たちと一緒に教室を出ていったよ」
「はぁ……めんどくさ」
質問に答えると、なぜか盛大に溜め息をつかれてしまった。
文句があるというのが態度からありありとわかるが、俺が何かしたわけではないためそんな態度をとられても困る。
せめてカルラが戻ってきてから文句を言ってほしいものだ。
「あなた、私から離れるんじゃないわよ?」
「えっ? 今なんて言った?」
「うっさい、ばか。なんでもない」
ラクスが言ってきた言葉を聞き間違いかと思い聞き返すと、凄く早口で貶されてしまった。
聞き返しただけでこの塩対応はさすがに酷くないだろうか?
だがしかし、この様子を見るに俺の聞き間違いじゃなかったのかもしれない。
もしかしたらラクスは、俺の事を守ろうとしてくれているのではないだろうか?
「はぁ……ほんとめんどくさ……」
隣でぶつぶつ『めんどくさい』と繰り返すラクスを横目に、俺は少しだけ驚くのだった。
◆
「――おい、シュナイツ。お前が先頭を歩けよ」
俺たちが出発する番になると、学園の西門を出てすぐにチームのリーダーが俺に命令をしてきた。
視線を向ければニヤニヤと随分と楽しそうにしている。
他の六年生たちも同じように笑みを浮かべていた。
お調子者であるカルラも六年生たちに同調するように俺の背中を押してくる。
早く行け、暗にそう言っていた。
普通は先頭と最後尾は六年生が歩くものだ。
前からと後ろからのモンスターの接近にすぐに対応が出来るように敷かれる布陣。
セオリーを無視してまで六年生たちは娯楽を選んだというわけか。
ここで逆らっても意味がない事を理解している俺は、黙って先頭に立つ。
するとラクスがすぐに俺の後ろを陣取ったが、リーダーがラクスの首根っこを掴み上げた。
「おい、お前は俺の後ろだ」
「どうして?」
「お前ミュンテ家の人間なんだろ? 怪我でもさせたら面倒事になるから安全な所にいろって言ってるんだよ」
リーダーはそう言うとグイッとラクスの体を引っ張り、自分の後ろへと行かせた。
随分と自分の実力に自信があるようだが、中々粗い事をするものだ。
首根っこを掴まれてもラクスが大人しくしていたのは意外だったが、さすがに六年生三人を相手取るには分が悪すぎると理解しているのだろう。
大人しくしてくれているようで安心した。
それにラクスが本気で魔法を使ってしまうと辺り一面の森が火の海と化し、たちまち全員死んでしまうところだ。
ラクスが得意とする火属性の魔法は、森という環境と相性が悪い。
考え方によっては一網打尽に出来るため相性はよく思えるが、その場合は自分も巻き込まれてしまうため使う際は要注意なのだ。
まぁ他人の心配をしてはいるが、本当に心配しないといけないのは俺自身の事だ。
魔法を使えないにもかかわらず先頭を歩かされてしまっている。
先頭を歩いているという事は、このメンバーの中で一番にモンスターへと遭遇する可能性が高いという事だ。
無事に済めばいいが――人生、そう甘くないものだ。
「――はっ、早速出やがったか」
木の影から飛び出してきた、体長1.5メートルくらいのモンスターを見て、愉快そうにリーダーが笑みをこぼす。
そしてポンッと俺の肩に手を置いてきた。
「おい、シュナイツ。あれはお前が一人で倒してみろ」
やはり六年生たちの目的はこれだったか。
要はモンスターを相手に俺を使って遊ぼうというのだ。
ほんと、こういう奴等は嫌になる。
俺は懐から杖を取り出し、自分と身長が変わらない二足歩行のモンスターを前に杖を構えるのだった。
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