第14話

 保健室ではいつもの指定ベッドに代山だいやまが横になり、華縞はなじまがその脇にちょこんと座っていた。


 ボクの姿を見た瞬間、華縞は立ち上がって声をかけてきた。

「大丈夫でした?」

「見せたかったよ。あのあとのボクの活躍を。迫り来る悪の軍団を千切っては投げ千切っては投げ、繰り出したボクの土下座にもう全米が涙したとかしないとか」


 青白い顔した代山が華縞に向かって言う。

「な? 猫丸ねこまはすぐ逃げるレアモンスターのようにしぶとい」

「はい! 代山さんの言うとおりですね」

 華縞はボクの方を一切見ずに全然褒めてるように聞こえない言葉を吐いた。


「ボクが格好良いという話は聞き飽きてるからいいよ。お前の調子は?」

「いつものことだ。ギリギリ生きてるだけだからな」


 代山のナイーブな発言に華縞が有り余った元気を注入するように拳を握りしめて言う。

「そんなことありません! 現代医学はあらゆる不可能を可能にしてきたんですよ」

「自分の身体のことは自分が一番よく分かるもんだ」

「そんな……」


 代山は深刻にそういうことを言うタイプではない。

 こういう発言も自虐的な冗談の一種で、相手が同情するのをみて面白がっているフシがある。

 ボクなんかは慣れてしまって相槌を打つことすら面倒くさいくらいだ。


 しかし、そんなことを知らない華縞は、発言を真に受けて落ち込んでいた。

 毎度毎度、代山の前で空回りする華縞は見ている分には面白いが、さすがに放っておくのも心苦しい。


 ボクは深刻な表情のまま華縞に話しかけた。

「そんなことないよな? 自分の身体のことだって案外わからないもんさ。ほら、例えばオナラだから大丈夫、上手いことスカしてやり過ごそうって思ったのに、実体の伴ったのがでてきてしまうことくらい華縞にだってあるだろ?」

「ないです」

「話の流れ的に正直になった方がいいぞ。本当にないか? 今まで一度も? 見栄はらなくていいから」

「なんで執拗に聞き出そうとするんですか? あるわけないじゃないですか。なんか顔近いです。ちょっと鼻息も荒いです」

 そう言って華縞は顔を背けた。


「答えなくてもいいけど、そういうことだよ」

「そういうことって、猫丸さんが変態だってこと以外なにも伝わってこないんですけど」

「それで十分さ」

「なんでそんな晴れやかな、やりきった顔してるんですか。気持ち悪いです」

 華縞は鼻の付け根に顔のパーツを全て寄せた歪んだ顔でボクを見る。


「ハハハ。二人はいいコンビだな」

 代山が生気の薄い笑いを浮かべてボクと華縞を見た。


 それを聞いた華縞は眉を下げて曖昧な笑みを浮かべていた。

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