第13話
授業が終わり、久しぶりに教室で過ごしていた
急いで手で覆ったものの、飛び散った血がノートを赤く染める。
周りのクラスメイトは、いつものことと呆れ、中には「汚ーい」と顔を
たまに授業に出たと思えばこのありさまだ。
ボクが様子を見に近づこうとすると、
お姫様抱っこというのは、それ相応の筋肉と、それ相応の相手の軽さがないと成立しないものだ。
代山は男にしては軽いが、それでも華縞が抱きあげるなんてできるわけなかった。
「チィッ! ロマンチックなシチュエーションは捨てがたいですが!」
華縞は古来より人々に親しまれてきた伝統的な人体運搬法であるおんぶに切り替えた。
ボクが代わりに背負ってよかったのだけど、そんなことを言ったら華縞から罵倒されそうだったので二人の横をついていく。
保健室に向かう廊下で、男子生徒に声をかけられた。
「誰かと思ったら代山と華縞じゃないか。なに不思議そうな顔をしてるんだ。クラスメイトの名前を覚えるの常識だろ」
声をかけてきたのはボクのクラスの者だった。
名前は知らない。
仮に少年Aとしておこう。
面倒臭いことになりそうだなぁと思い、華縞に行くように手で指示をして少年Aに話しかける。
「そうそう、選挙どっちに入れる?」
少年Aはボクを無視して華縞の腕を掴んだ。
「この先に先生いたぞ。そんな姿見られたらなに言われるかわからない。こっち来いよ、いい場所知ってるから」
少年Aはニヤけた笑みを作ると華縞を舐めまわすように見て言った。
完全にボクを無視して華縞にちょっかいを出す少年A。
ボクは華縞と少年Aの間に割り込んで、あくまでにこやかに友好的な雰囲気を前面に押し出して声をかける。
「なぁなぁ!」
「うっせぇ、誰だお前」
「
「あそ。なに? 華縞って代山とできてんの?」
少年Aはボクを華麗に無視して華縞に顔を近づける。
「そういうのじゃないです」
華縞は代山を気遣ってか囁くように言って顔をそむけた。
「わかってるって。俺を誰だと思ってるんだ。別に言いふらしたりしないよ。お前らがそうだってのは知らなかったけどさ。大丈夫だから」
「急いでるんです」
「あ? なんだよその態度。せっかくこっちが助けてやろうってのに、何なんだお前」
少年Aは胸に隠されたバーサクスイッチが入ったかのように、一瞬にして表情が変わり声に怒気がはらんだ。
華縞が自分の視野の狭さからトラブルに飛び込んでいったというなら、関わりあいになりたくはないけど、今回の場合はそうじゃない。
ボクは警戒されないように笑顔で少年Aの背中に手をかけて言った。
「ほらほら、リラックスしろよ。ちょっと聞きたいことがあったんだ」
「うるせぇ、お前は関係ないだろ!」
少年Aは、ボクの肩を突き飛ばした。
まったく、カルシウム足りなボーイだ。
この手のタイプは、自分の感情で行動するので目いっぱいで、相手に感情があるなんて想像できないんだろう。
だから、親切にしてやった自分をないがしろにした酷いやつと敵認定する。
よくある話だ。
別にこいつが悪人というわけでもない。
未熟な精神状態だとは思うけど、赤ちゃん相手に正論を説くのもおかしい話だ。
「猫丸さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫かじゃねぇよ! お前のせいだろうが! 人が気を使ってやりゃ図に乗りやがって。お前もうざいんだよ」
ボクの背中を少年Aはおもいっきり蹴りつけた。
息がつまり声が出なくなる。
「このクズが!
少年Aは自分の言葉によって余計に感情的になりボクの背中を蹴り続ける。
ボクはそれを耐えていた。
「その辺にするぞよ!」
声とともに現れたのは甘噛魔だった。
「おお、甘噛魔。聞いてくれよ、このクズがさ。人がせっかく親切にしてんのに邪魔しやがって。やっぱお前の言うとおりクズはダメだわ。つけあがらせるとろくな事にならねぇ」
少年Aが甘噛魔にそう告げ、甘噛魔はボクと華縞を冷たい目で見下ろしていた。
ボクは立ち上がり、華縞に行くように促す。
華縞はこっちを伺いながら遠慮がちに駈け出した。
「なにか言うことはないのか?」
甘噛魔はボクを釣り上がった目で睨みつけるとそう言った。
「ないよ。まぁ、こういうこともあるよね」
「そうか」
「おいっ! 華縞! 畜生、なんなんだあいつ。甘噛魔、ああいうやつらがでかい顔出来ないクラスにちゃんとしてくれよな」
少年Aは甘噛魔にそう言った。
甘噛魔はそれには答えず、ボクを見た。
「リラックスしような」
そう言ってボクは少年Aと甘噛魔の肩を叩いて華縞の後を追った。
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