第12話

「面白い展開になってるじゃないか。華縞はなじまさん、やるね」

 代山だいやまはタブレットの動画を時折笑いをこぼしながら見て言った。


「そうなんです。あたしって結構やるんです。ちなみに料理の腕も抜群です。実はクッキー焼いてきたんですけど、甘いもの苦手じゃなかったらどうぞ」

「甘いもの医者から止められてるんだよね」

「ホーリーシッ!」


 華縞の恐らく彼女なりに全力で取り組んだであろう、リボンのかかったかわいいクッキーは、代山の素っ気ない言葉に宙ぶらりんになった。

 まるで器用そうなイメージのない華縞にとって、どれだけの思いをかけたものなのか。

 それを考えるとさすがにいたたまれなくなる。


「じゃ、ボクがもらうよ。甘いもの好きだから」

「なに言ってるんですか。あげるわけないじゃないですか、猫丸ねこまさんはこの失敗した奴でも食べてて下さい」

「う、袋を開けた瞬間焦げ臭い。これ、甘いモノじゃないだろ」

「美味しいクッキーには犠牲がつきものなんですよ」

「なぁ、猫丸。お前、それでいいのか?」

 炭として字が書けそうな禍々しい塊を恐る恐る舐めていると、代山が問いかけてきた。


「いいわけないだろ。こんな謎の消し炭で」

「そうじゃない、学級委員長だよ。お前ならもうちょっと面白くできると思ったんだけどな」

「なに言ってるんだ。ボクにできることは全てやったよ。これ以上、真面目なことに巻き込まないでくれ」

「でも、楽しかったんじゃないか?」

 代山はそういうと、ボクの反応を伺う。


 どうもこいつにはこの筋書きが好みではなかったらしい。

 大方ボクが賑やかしとして暴れまわって、大騒ぎになるのを望んでいたのだろう。

 しかし、華縞はともかく代山のために真面目に取り組まなければならない理由はない。


「は? ボクが?」

 いつものように、気の抜けた表情で返す。

 それが一番波風を立たせない方法だ。


「そうだ。俺はお前が本気を出したら恐ろしいことになるんじゃないかと睨んでるんだ」

「やめてくれ。俺の中には封印された魔王の血脈けつみゃくなどないぞ」

「謙遜するな。猫丸、お前はバカ界のヒトラーになれる男だと俺は見込んでいる」

「バカ界のヒトラー。……いいところ一っつもないな!」

「でも、面白そうだろ?」

 代山は邪悪な笑みを浮かべた。


 華縞は若干口元を緩ませて、そんな代山とボクを見比べていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る