第4話
実際に学級委員長ではなかったのだけど、クラスのほぼ全員が学級委員長的な執務を十文字に任せていた。
一般人が委員長という肩書によって喚起されるイメージ。
真面目、成績優秀、口やかましく、面倒見がいい。
そのすべてを
不真面目、成績不良、いい加減という、性質を兼ね揃えたボクとは自然と相性が悪くなる。
別に嫌っているわけじゃない。
しかし、向こうはこっちを嫌っているに違いない。
遅刻をしたり、だらけていたりすると、まるで受験を前に控えたお母さんのように注意をしてくる。
制服の着方にまで口を出す。
他の生徒にも言っているのだろうけど、ボクだけが重点的に狙われている印象がある。
ただ不真面目というだけで悪いことなど一つもしていないのに。
薄い眉に小さいへの字の口。
前髪を上げておでこをだした長い黒髪は利発そうなイメージを強調している。
細いリムの大きな丸いメガネの奥の瞳はいつも半眼で、眉間にシワが寄り、機嫌のいい表情を見たことがない。
そもそもそれほどまでに委員長キャラとして完璧な
十文字は新学期が始まって暫くの間、体調の関係で休んでいた。
ほんの一週間程度ではあったが、学校生活においてスタードダッシュの大事な時期である。
その間にクラスの者達は、お互いのキャラクターを把握し、なんとなしに今後つるんでいく仲間に当たりをつける。
そしてその波に乗れずにずっと友達のいない者もいれば、第一印象で焦って決めてしまったために、いまいち波長の合わない仲間たちと、やむにやまれず過ごす者もいる。
そんな感じである程度クラス内のキャラも、集団も確立したところで十文字は登校してきた。
そこでクラスの者たちが知ったのは、正に委員長というべき十文字のキャラクターだった。
まだ誰も、これほど長いこと学級委員長が不在になるとは考えてなかった頃だ。
もちろん、誰もが十文字が学級委員長になるものだと思っていた。
十文字をのぞいて。
彼女は委員長になるのを拒んだのだ。
拒んだという言い方は正確ではないだろう、遠慮したのだ。
「遅れてきた自分が今更みんなのリーダーとして名乗るわけにはいきません。学級委員長になるべきは、初めからクラスの者たちのことを把握した者がいいと思います。もしその方が必要というなら喜んで補佐をします」
誰もそんなこと気にしていないにもかかわらず、彼女自身の真面目さがそれを許さなかった。
このクラスに学級委員長が選出されなかった要因の一つとして、この十文字が辞退したということも大きいと思う。
十文字が学級委員長ではないのにわざわざ名乗り出るというのも気が引ける。
だからこそ、いつか学級委員長が真に必要となった時は、遠慮する彼女を説得して担ぎ上げるものだと誰もが信じていたのだ。
これは内心、十文字にとって穏やかではなかったはずだ。
口ではそう言いながらも、やはり本人も自分以上に学級委員長が適任な者はいないと思っていただろう。
しかしこの機会は十文字にとっても好機と言えた。
甘噛魔の独裁的な思想を許すわけにはいかない。
そのために立ち上がるというのなら大義名分も立つというもの。
大手を振って学級委員長に立候補できるというものだ。
「あなたのような方が学級委員長になるのは賛成できません」
十文字の言葉にクラスは湧いた。
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