第28話

 チナミは地面に刺さったバールのようなものを引き抜こうと顔を真赤にして力を込めていた。

 背の低いチナミと、日用品の域を超えたプロが現場作業で使う巨大なバールのようなものは同じくらいの高さに見える。


 試しに抜いてみようとちょっと力を入れたが、それくらいではびくともしなかった。


「無駄でやんす。それは古の時代から伝わる聖剣。いままでどれだけの大男が試そうと抜けなかったシロモノでやんす。これを引き抜いたものは勇者となるという言い伝えもあるでやんす」


 バールのようなものの柄の部分を蹴ると、テコの原理でボゴッと地面にヒビが入った。

 力を込めるまでもなく、バールのようなものボクの手よって引き抜かれた。


「おお、あなた様はまさしく伝説の勇者でやんす!」


 チナミがボクを崇めひれ伏す。


 調子に乗ってバールのようなものを高く掲げてみた。


「なにしてんねん、勇者。遊んでないで早よいや」


 ジャックが敬意のかけらもなく勇者を叱責する。

 そう言いながらも前にいたヴィッチを一体、カンフーベンチで倒し、素早くパンティを下ろす。


「勇者さん、そんなの持ってたら荷物持てないじゃないかしら?」


 ミサキが微笑みを携えたままそういう。


「しょうがないでやんす。勇者様、ボクチンが聖剣を預かっておいてあげるでやんす」


 チナミがそう言ってバールのようなものを奪ったが、思いの外重かったのか、二三回振り回しただけで飽きて投げ捨てていた。


「勇者さんには、武器、似合わないですよね」


 ランは若干気だるそうに、それでも気丈に微笑みかけて荷物を渡してきた。


 その中にはあのカメラがあった。

 ボクはカメラを取り出して構えた。

 小さいモニターには揺れる映像が映し出され、そこにはジャックの背中があった。

 ちょうど前方をうろついていた最後のヴィッチを倒してパンティを下ろしたところだった。


 ジャックはカンフーベンチを器用に足で蹴りあげるとこっちを振り向く。


「なんや勇者。記念撮影しとる暇なんてないで」


 みんなでジャックを先頭にして進み始めた。


 ボクはそんなジャックの背中をずっとカメラで撮っていた。

 ランとミサキはカメラを向けると照れているのか嫌がる素振りを見せた。

 チナミはどこを撮っていても、画面に入りたがり常にカメラの前をピョンピョンと飛び跳ねていた。


「これがボクの夢なんだ」

「なんや?」

「夢なんだ。映画監督になりたいんだ」

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