第21話
ハルマは俺たちを押しのけてカンダの前に頭を出した。
「祟るなよ」
カンダは半笑いでそう言うと、思いっきりバールのようなものを振りハルマのこめかみを殴りつけた。
ハルマの巨体が吹っ飛び、地面に音を立てて倒れ、ピクリとも動かなかった。
人が人を殺す、そのあまりにも日常から乖離した出来事にボクは目が離せなかった。
沈鬱なムードが漂う中、チナミがボクの服の裾を引っ張る。
「実は内密な相談があるでやんす」
「なんだよ、こんなときに」
チナミはボクの耳に口を近づけてささやいた。
「ちょっと、しっこ漏れちゃったでやんす」
チナミは悲しそうな表情でそう言った。
その悲しみがハルマの死のせいなのか、おしっこ漏らしたせいなのかはわからなかったけど、やはり子供だ。
そんなこともあるだろう。
それだけとんでもない事態だったのだ。
「わかった。二階に行こう」
ボクとチナミは二階の洗面所に向かった。
幸い、水はまだ出る。
しかし、ガスが来ていないのか、それとも元々壊れているのかお湯は出なかった。
チナミの着替えがあるのかはわからなかったので、とりあえずジャックが集めた衣類の中から一番小さいサイズの服を見繕う。
さすがに子供用のパンツはなかったので、小さく丸められた女性用のパンティを取った。
女性用のパンティを手にするなんて気恥ずかしいはずだけど、今のボクの頭にはヴィッチのパンティのことしか思い浮かばなかった。
便宜上パンティと呼んではいるけど、あれは外皮のようなものらしい。
詳しくはボクにはわからないし、そもそもヴィッチがどういう構造で、死んでいるのに歩くのかなんてことは、生物学的にも謎なのだろう。
「ほら、自分で脱げるだろ」
なんでこんなことしなきゃいけないんだ、という気持ちを抑えながらチナミを促す。
「ちょっとでやんすよ。ほんのちょっとだけ漏れただけで、おしっこというよりも心の汗ってレベルでやんすから」
そう言い訳しながらチナミはサロペットパンツを肩から脱いでいく。
「わかったよ。誰にも言わないから」
着替えを用意してチナミをみると、チナミはもじもじと一部の湿ったパンツをいじっている。
「誰でも通る道だ。ボクだって小さい頃はしたさ。気にすんな」
そう言ってチナミのパンツをずり下ろす。
別に見るつもりも見たい気持ちもなかったけど、必然的にチナミの股間が目の前に来る。
そこには、なにもなかった。
少年にあるはずの、アレがないのだ。
思わず後ずさり尻餅をつく。
「ヴィッチ……」
尻餅をついたまま手を使って逃げようとするが、狭い洗面所ですぐに行き詰った。
「失敬な! 全然ヴィッチなんかじゃないでやんす。ピチピチの生きた人間でやんすよ」
考えてみればヴィッチだったらパンティを脱いだ時点で動けなくなってるわけだし。
「女だったのか!」
「当たり前でやんす。今までなんだと思ってたでやんすか」
少年だとばっかり思っていた。
「わかった。いいから早くパンティを履いてくれ」
「待つでやんす。ちゃんと拭かないとかゆくなるでやんすから」
ボクはもう下半身丸出しのチナミの姿を直視することはできず、背中でその行動を見守っていた。
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