第20話
「ハルマ、痛いでやんすか?」
チナミがハルマのそばに寄り添い尋ねる。
ハルマは答えなかった。
「そうでやんす。ボクチンのハルマは無敵だから痛くないでやんす」
「覚悟はできたか?」
カンダがバールのようなものを振り上げる。
ボクとジャック、チナミ、ミサキとランがハルマを取り囲む。
「ごめんなさい。なにもできなくて、ごめんなさい」
ミサキが涙を流しながらそう訴える。
「フンガー……」
ハルマは一言だけ、そう答えた。
「ハルマはこう言ってるでやんす。俺は幸せだった。小さい頃から怪物扱いされてたこの俺を、チナミは初めて友達と呼んでくれた。チナミを頼む、この方はさる高貴な家柄の出で……」
「そんなことは言ってない。フンガーって言っただけだ」
チナミの言葉を遮ってハルマがしゃべった。
「喋れたんだ!?」
こんな場面なのにボクはしょうもないことで驚いてしまった。
「フン。でもまぁ、チナミを頼む」
死の覚悟をしたハルマの言葉は重い。
チナミがハルマの首に抱きつく。
ハルマはそんなチナミの頭をポンポンと叩いた。
「なにか、できることはないんですか?」
「そうだな、死ぬ前に一つだけ」
ボクがそう聞くと、ハルマは残された僅かな命をしぼるように言った。
「なんです?」
「おっぱい揉みたい」
「よしわかったでやんす! ボクチンのおっぱいを好きなだけ揉むでやんすよ。なんだったら吸ってもいいでやんす」
ハルマはチナミを無視して女性陣を見た。
「うちは絶対に嫌。ヴィッチが感染ったらどうするのよ」
サクラが身体を隠すように胸の前で腕を組む。
思い沈黙の後、ランが口を開いた。
「ここはあたしに任せてください。どんなもんじゃーい!」
半歩前に出たランの胸をハルマは見つめ、ゆっくりと首を横に振った。
「それはおっぱいとは言わない」
ランの控えめな胸をハルマは一刀両断した。
「な、な、なんてこってしょう! 十分なおっぱいじゃないですか! 量より質ですよ。ヂス・イズ・おっぱいです!」
ジャックが激昂するランをに向かって気の毒そうな顔をした。
「ラン、残念やけどそれは……」
「残念ってなんです!? 人のおっぱいのことを残念っぱいみたいに言わないでください! バカ、あんぽんたん、死んでください!」
「言われなくても死んじゃうでやんす」
その、なんだかバカバカしい空気は、死に臨むという深刻な状況を鼻で笑うようで。
ひょっとしたらハルマはそこまで考えてこんなことを言ったのかもしれない。
「こないして死に臨む時、人は生まれた時に回帰したいのかもしれへんな。オカンの温もりを求める気持ちはわからへんでもないわ」
ジャックがそう言ってサクラを見る。
「うちは揉ませないわよ」
サクラは特に何の感情もなく当然のようにそう答えた。
こうった特殊な状況であるということをまったく意に介していない。
感情的に嫌がるなら説得のしようもあるが、きっとサクラにはそういったことも通じないだろう。
「いいじゃないか、おっぱいくらい。減るもんじゃないし」
カンダがにやけながらそう言うと、サクラは侮蔑するように顔を歪める。
確かにまるでセクハラのお手本のようなセリフだった。
ハルマは身体を激しく痙攣させ唸った。
「フンガー」
「ハルマッ! 痛むでやんすか? 苦しいね、辛いよね。でもボクチンたちにはおっぱいがないんだ」
「失礼ですね! あたしはありますよ。ありまくってますよ!」
ランがそう叫んだ。
ボクはランの胸を見る。
そしてランの胸を見たジャックと目があった。
お互いに言わんとしていることはわかった。
「……ないんや」
「ないね」
肩を落としてそう言ったジャックとボクの尻に、紅に染まる流星膝蹴りが炸裂した。
「私が……」
ミサキがそう言って小さく手を上げた。
「絶対にダメです! ミサキさんにはそんなことさせられません!」
「私は、私にできることがしたいの」
「でもお兄ちゃんが!」
ランがミサキに食って掛かる。
ボクはジャックを見たが、ジャックは不機嫌そうな顔で俯いていた。
やっぱりミサキとジャックとの間には何かあったのだろうか。
「ランちゃん、あの時とは違うわ。私は私の意志でそうしたいの。ハルマさんにそうしてあげたいの。させて欲しいの」
「やだ、ミサキさんにはそんなこと……」
「私にもやらせてよっ!」
ランに対してミサキは声を荒げた。
ミサキのそんな大きな声は初めて聞いたし、ランは怒鳴られたショックで固まっていた。
「ランちゃんの気持ちは嬉しいよ。だけど、そうしてると辛いの。自分がお荷物みたいで苦しいの。いつまでも逃げられないの。私だって、私なりに未来を生きさせてよ!」
「ミサキさん……」
ミサキは羽織っていたカーディガンを脱いでハルマの前に立った。
「フンガー」
ハルマはそうつぶやく。
チナミがハルマの口元に耳を持っていく。
「なになに? 直がいいでヤンスか?」
その一言にミサキの顔が一気に強張った。
確かに服の上から揉んだというのは、服を揉んでいるようなもんだ。
ジャックが慌ててミサキとハルマの間に割って入る。
「そないなことまでせんでもええ。ハルマさん、申し訳ないけど……」
「いいんだ。無茶を言って悪かった。俺のことなんか気にせずに生き抜いてくれ。俺が命をかけて守ったそのおっぱいを! 俺の命と引き換えに揺れるそのおっぱいを、よろしく頼む」
そう言ってハルマは頭を下げた。
「私、大丈夫です」
ミサキは顔を上げた。
そして腕を曲げて背中で合わせると、もぞもぞと動いて服の中で腕を移動させる。
やがてミサキの服の裾からレースのついた薄桜色のブラジャーが落ちた。
ハルマはゆっくりと、ミサキの服の中に太い腕を滑りこませた。
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