第16話 復讐

 翌朝、沢田警部からの連絡を受けた冴木所長は溝呂木チーフ、檜山、浅川、大島、と主だったメンバーを引き連れ大永たいえい医器の研究室に来ていた。


「第二の殺人、ですな。しかもいずれも大永医器の社員、しかも要職」


 沢田は相変わらず興味が尽きせぬ表情で生き生きとしている。室内なので全員マスクはしていない。


「本当のところ、あらかた目星はついているんでしょう? 冴木さん」


 いたずらっぽくも探るような眼で冴木を見る沢田。


「ええ、昨日現場の近くで面白いものを見つけましてね。これです」


 密閉式のビニール袋に入れたそれを提示する。


「これは」


大永たいえい医器の社員バッヂですよ。裏を見てごらんなさい」


「S.U.……? これは?」


「社員のイニシャルですよ」


「ではこのイニシャルの人物が!」


「そう、ショウジ ウダガワ 今行方不明の事業本部長です」


「あの拳銃所持の! よし! おおい! 松山!」


 沢田の元に駆け寄った刑事に沢田は耳打ちをすると、その刑事はすぐにどこかへ消えていった。


「いつもご協力ありがとうございます。今度こそ犯人を挙げてみせますよ」


 まるでスポーツの話でもしているかのように実に楽しそうな沢田に冴木は無言で笑いかけた。


 しかしその後も連日一人ずつの犠牲者が三日に渡って出る。これは大永医器とは無関係の市民であった。いずれも冴木は宇田川が“栄養補給”をして生き長らえている、そう判断した。警察は大規模な山狩りをしようと計画しているが、このままでは犠牲者が増え続けるばかりだろう。そして殺人現場はいずれもSSTLのすぐそば。冴木は決心した。


 その夜。

 冴木所長は所用ががあるからと夜間一人で出かけ、深夜に一人で駅から歩いて帰宅途中であった。深夜の住宅街と言ってもところどころ明かりが暗く不用心さを感じる時がある。


 その背後から付け狙う人影。猫背で肩を落とし、人間のそれとは思えない呻り声が口から洩れる。


 冴木は足早にSSTLとは異なった道筋を歩く。怪しい人影も淡い燐光を放ちながらその後に続く。冴木は住宅街の空き地に囲まれたやや広い道路に出た。


 冴木の前に数人の警察官が勢いよく現れる。そして冴木と怪人物の背後にも。SSTLのメンバー一同もこの背後の警官隊と共にいた。冴木と怪人物は前後を警察官に挟まれた格好になる。冴木はゆっくり振り向いて猫背で燐光を放つ怪人物に声をかけた。


「宇田川部長、だな?」


 怪人物は首を奇妙な方向に何度も捻りながら呻く。


「エ、エ、ジギ、ョオホ、ンブチョ、エ、エグッ」


 長い牙を生やした宇田川は人間としての知性も失いつつあるように皆には見えた。このさまを見た沢田が苦虫を噛み潰したような顔になって警官隊に指示を出す。


「発砲用意。いいか、一発も外すんじゃないぞ」


「私への恨みを晴らしに来たんだね」


 その冴木の言葉に頭を抱え絶叫する宇田川だった何か。


「エアアア! オマエサエ! オマエサエイナケレバアッ! エエッ! サッサッサエキィッ!」


 宇田川は冴木に向かって突進した。

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