第14話 発見
「ああ、お早いですな。よもやこうなるって予見していたんじゃないでしょうね?」
冴木所長が溝呂木チーフをを伴って現場検証中の
「ああ、うん」
「そうなんですか?」
「いや、まさかこんなことになるとまでは思っていなかった。それで沢田警部、犯人の目星はついているのですか?」
「いや、それがこのご時世で時間も時間ですしね。ここ一帯は防犯カメラも少ない上、目撃証言もない状態なもので難航しておりまして。ただ、ここは殺害現場ではないようなので、そこを割り出せればあるいは、とにらんでおります」
眉間にしわを寄せる冴木。これは吸血人間と化した通り魔の犯行なのか、それとも。
「警部。お分かりの通りこれは普通の殺人じゃない。厳重な警戒態勢を敷くようお願いします」
「冴木さんのお願いとあっちゃあ聞かないわけにはいきませんな。おおい! 松山!」
沢田警部が大声で呼びつけた警官に何か耳打ちをすると、その警官は足早に去っていった。
「まあお任せ下さい」
余裕の目つき見せる沢田だったが冴木の表情は冴えない。
「我々もパトロールを強化します。それでは」
「それは心強い。では!」
軽く敬礼する沢田に頷いて冴木が溝呂木を伴い関係各省庁への事情説明に向かおうと車に乗り込もうとした時、沢田が遠く冴木の背後から声をかけた。
「それと! マスク! アルゲンマスクを使用しちゃいかんとはいったいどういうことなんですかね!」
「いずれ判ります。それまで待っていてください。とにかく危険なのでアルゲンマスクは使用しないように願います」
そう答え走り去っていった冴木らの乗った車を見つめ、小首を傾げながら沢田は呟いた。
「危険ねえ、一体どんな危険があるってあるって言うんだ……?」
一方でパトロール任務に就いたオッター号車内には、ウィルス対策のエアクリーナーが微かな呻りをあげているにもかかわらず、どんよりとした空気がこもっていた。
「さすがに昨日会ってた人に死なれると辛いわね……」
浅川の表情は暗い。
「ああ……」
同意する檜山もまたその表情は曇っている。
「とにかく、所長とチーフがいない今、僕たちだけできちんとパトロールしないとですね」
「判ってるって、生意気言いやがって」
したり顔の大島の発言に
「よし行くか、国道217号線から
三人は人が潜むのに適していそうな高架下、
「まあ、そう簡単に手掛かりが見つかるわけがないよなあ」
やや自嘲的に笑いながらホットドッグにかぶりつく檜山。
「そんな呑気なことを言っていていいの?」
あんパンを口にしながら浅川が抗議する。
「ううん……」
「とにかくもう一度隈なく調べてみない? もしかしたら何か見つかるかも」
「もう一度!」
檜山が呆れたような声を上げ助手席の浅川を睨む。
「夜のパトロールまではまだ時間があるし、やってみましょ」
浅川の声は有無を言わせないものがあった。檜山はうんざりした顔でオッター号を発進させた。
そして大永社長殺害現場にほど近い高架下にある人影もまばらな公園を訪れた三人。白いサージカルマスクをつけ周囲を探る。もう夕刻も近く、ペンライトで足元を照らしながら目を凝らす。
大島の足元でライトの明かりをきらりと反射するものがあった。思わず声を上げる大島。
「あ、これって」
「どうしたの
「何か見つけたのか」
大島が見つけたのは銀色の小さなバッヂにように見える。
「これ、スーツの襟につけるバッヂに見えるけど」
「ああ!」
突然檜山が大声を上げる。
「何よびっくりさせないでよ午朗さん!」
「これ! あれ! あれだ! 社員バッヂだ! しかもこいつはあれだぞ、
「なんですって」
「本当ですか!」
「ああ、昨日社長がつけていたのを見たんだから間違いない。こいつはひょっとするとひょっとするかも知れんぞ」
ここに落ちていた大永医器の社員バッヂが意味するものとは。それを思うと一同に緊張が走るのだった。
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