第13話 吐露

 冴木が導き出した衝撃の検査結果からわずか7分後、SSTLの扉を叩く男がいた。

 大永たいえい医器いき株式会社の大永おおえ社長である。


 事務所兼応接スペースに通された大永社長は哀れにもすっかりうな垂れている。だがそれを見つめるSSTL面々の目は厳しい。


 檜山午朗が詰問する。


「社長はアルゲンマスクの秘密についてご存じだったんですよね。なぜ今まで黙っていたんですか」


「通常では十年以上の装用で発症するので問題はないと宇田川や酒井は踏んでいたようです。その頃にはとうにスーザ禍も収まっているだろう、と。ですが私はこのような危険性があるもの自体を生産販売することは難色を示していました…… ああ、連中の言うことなど聞くべきではなかった! 傾きかけた我が社の存続のためとは言え私はとんでもないことに手を染めてしまった!」


 頭を抱える大永社長。と、そこに溝呂木チーフを伴った冴木所長が現れる。冴木は冷たい表情で開口一番驚くべき発言をした。


「だから、我々にあのような電話をよこした。違いますか」


「うっ」


 大永社長の頭が更にうな垂れる。


「もしご自身に信念がおありだったのでしたら、直接我々に依頼をするべきでした。いや、直接この事実を公表すべきでした」


「……おっしゃる、通りです」


 冴木所長と共にいた溝呂木チーフは大永社長に声をかけた。それは大永社長にとって追い打ちともなる事実であった。


「それに残念ながら酒井と宇田川の見立ては間違っていたようです」


「えっ」


「我々の高度精細試験装置(HDTE)が今しがた出した結果では、通常の装用を一年九カ月から二年以上続けた場合発症します。つまり」


 厳しい表情で後をひきうける冴木所長。一同も衝撃を隠せない。


「つまりもう吸血人間が生まれていてもおかしくないわけだね」


「ええ」


「吸血人間……?」


 溝呂木と冴木の会話が理解出来ない顔をする大永社長。


「ああ、それは明日。できれば社長と共に明日厚労省へ出向きたいのですが、ご同行いただけますでしょうか」


「無論です。覚悟を決めました。私は私が知っているだけの事実を明らかにするつもりです」


 ここにきてようやく大永社長の表情に強い決意の色が表れた。


「では明日少し早いですが、八時にお迎えに上がるようにします。よろしいですか」


「よろしくお願いします。ありがとうございます。これで私も決心がつきました」


 そして翌朝八時、溝呂木が大永社長を迎えに行くこととなり、今日のところは大永社長は帰宅することになった。大永社長はSSTL一同に対し何度も何度も痛々しいほどに頭を下げて帰っていった。



 そして翌深夜一時、大永社長の遺体が路上に遺棄されているところを帰宅途中の会社員が発見する。


 検死の結果、頸動脈に二つの小さな穴があり、遺体からは血液のほとんどが抜き取られていることが確認された。大永社長は生きたままこの頸動脈の穴からじっくりと時間をかけて血を抜かれ、失血死したとの検死結果が出た。

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