第12話 露見

 冴木所長が厚労省と環境省へ進言をしてもなお所長の心は晴れなかった。

 冴木はSSTLへ戻るとすぐにさらに詳細な検査を行うことにした。


「どうもね、こんなものじゃないような気がするんだ。そうでなければあのような襲撃までするとは到底思えない」


 そう溝呂木に言うと冴木はそれこそ不眠不休で検査を始める。




 そして十一日後。


 冴木の助手をしていた溝呂木は研究室内のソファで仮眠をとっていた。これを冴木がたたき起こす。


「溝呂木君、溝呂木君! これだよ、判ったぞアルゲンマスクの秘密が!」


「なんですって!」


 慌てて身を起こす溝呂木に冴木が顕微鏡を見せる。


「これはアルゲンマスクのアルゲニスチウムを濃縮した粉末をさらに濃縮させたものを吸引させたラットの血液だ」


 これに赤外線を当てる。


 眼を見張る溝呂木。


「こっ、これは!」


 顕微鏡に写った血液は瞬く間にその色を失っていく。


「血液が、透明に!」


「うん、このアルゲニスチウムが肺から血液中に入り込み、一定の赤外線を照射されることを引き金にして赤血球中のヘモグロビンを瞬時に破壊してしまうんだ。これだよ、奴らが露見することを恐れていた本当の秘密というのは」


 冴木は呻いた。


「これは健康被害どころの騒ぎではないな。至急関係省庁と連絡を取らねば。ああ、そうだ。人間の場合何年装用することでこの健康被害が発生するのか計算しておいてくれないか。私はこの絡繰りについてもっと…… んっ? なんだ?」


「所長、ラットが……」


 ケージに入れられた十数匹のラットがけたたましく鳴き出した。傍らには旧式の白熱灯が点灯しラットたちを照らしている。

 ラットたちは白熱灯の明かりを浴びながら猛然と他のラットに襲い掛かる。そして噛み殺したラットの傷口から血を吸うのであった。しかしその血もまたたちまち透明化するとラットはまた次の獲物に飛び掛かる。そうして凄惨な共食いを繰り返しながら二分後には十七匹もいたラットのうち、生きたラットは一匹もいなくなってしまった。


 冴木、溝呂木の両名はこの惨劇に声も出ない。脂汗がじっとりと浮かぶ。

 溝呂木がようやくかすれ声を絞り出した。考えたくもない仮定が溝呂木の口をついて出る。


「先生…… もしこれが人間なら」


 冴木も険しい表情で呻く。


「ああ、ヘモグロビン溶解症に陥った吸血人間たちがこぞって血をすすろうと人々に襲い掛かることになる……」

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