第9話 襲撃
「溝呂木君、こちらはおおむね完了したよ。そちらは?」
「はい、自分の方もこれで。間もなく起動できますね」
「うん。あとは解析して仕上げを
少し疲労感の混じった笑顔を交わす冴木所長と溝呂木チーフ。
「それと檜山君からはまだ何の連絡もないのか?」
「はい宇田川の乗った車を尾行すると言ってきてからかれこれもう三時間になります」
「そうか。気になるな」
白衣を着た所長の表情が曇る。
「午朗たちを信じましょう」
「全くだな」
溝呂木に元気づけられ少し苦笑いになる冴木所長。
と、そこへ溝呂木の胸に留めてある超小型通信機が緊急信号を流す。スマートホンでははなく、これを使用したということはよほどの緊急事態なのか。所長と溝呂木の表情が硬くなる。溝呂木が通信機のスイッチを入れると檜山の緊張した声が室内に響いてきた。
「10-33(※1)、10-33。緊急通信、こちら檜山です」
「こちら溝呂木だ、どうした午朗、何かあったのか」
「やられました! まんまと罠にはまり宇田川の指揮する暴漢に襲われました。撃退はしたものの、現在東京西端の山中でオッター号のタイヤすべてを切り裂かれてしまい…… 申し訳ありません!」
「それで三人とも無事なのか」
「それはもう」
「ならよかった。無理はしなくていいからできる限り早く帰るようよろしく頼む」
「はいっ!」
檜山が慌てて付け足す。
「それと気を付けてください! 宇田川が尻尾巻いて逃げ出すとき、妙ににやついていたみたいで…… それに野郎、拳銃なんか持ってたんでそちらも気を付けてください」
「判った、『電磁銃』を用意しよう。ありがとう。修理もあるし車中泊じゃそうもいかんだろうがゆっくり休んでくれ。無事に帰るのを待ってる」
「ありがとうございます! 所長とチーフもお気を付けて。10-10(※2)」
無線を切ると冴木と溝呂木は固い表情で顔を見合わせた。
「……陽動作戦か」
「本命はここですね」
「今ここにいるのは我々と事務所に入った伊能君のお姉さんの方だけか。今となっては彼女を一人で帰すのは危険だな」
「ええ、電磁銃を持たせてここに避難させましょう」
「うん、そうだな。そうしてくれ」
「はい」
溝呂木が事務室へ向かおうとしたその時、冴木が高度精細試験装置(HDTE)に表示されているデータの異常に気付く。
「いや待ってくれ、これは何だ?」
「これとは」
溝呂木も高度精細試験装置(HDTE)のモニターを覗く。
「なぜ室外気温が上昇している? しかもこんなに急に」
何かを悟った溝呂木は事務室を通って伊能瑛里に避難するよう呼びかけ表へ出ようとする。一方で冴木はスマートフォンで消防に電話をかける。さらにその後、誰かにも小声で電話をかける冴木だった。
連絡を済ますとソフトボール大の消火剤や消火器を引っ張り出す冴木と溝呂木。恐らく何者かがここ、冴木科技験(SSTL)と高度精細試験装置(HDTE)棟に火を放ったのだ。それを証明するかのように遅ればせながら火災報知器がけたたましく鳴り響く。冴木と溝呂木はマスクをすると消火装備を手に高度精細試験装置(HDTE)棟を飛び出した。
▼用語
※1 10-33:
アメリカの法的機関やCB無線(市民無線)などで使用されるテンコード(テンシグナル)のひとつで、「緊急通信」を意味する。読みはテンスリースリー。
※ 10-10:
アメリカの法的機関やCB無線(市民無線)などで使用されるテンコード(テンシグナル)のひとつで、「送信終了」を意味するコード。読みはテンテン。
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