第10話 放火


 黒ずくめの衣装に黒いマスクをした四人の男たちは慣れた手つきで、ガソリンと灯油の混合燃料を冴木科技験と高度精細試験装置の周囲に撒き火をつけた。


 点火を確認すると四人の男たちはポリタンクを捨てそのまま走って逃走を試みるが、警棒を持った数人の警察官が立ちはだかる。


「警察だ! おとなしくしろ! 抵抗しようなんて考えるんじゃないぞ。俺は警告射撃なんて悠長なことはしないんでな。始末書も報告書もくそくらえだ」


 警官隊の先頭に陣取った沢田警部が大声で賊を威嚇する。冴木の依頼を受け待機していた警視庁の沢田警部の指揮のもと、男たちは道路の前後を包囲された。その時冴木から沢田に連絡があり、拳銃所持の可能性が示唆されると、沢田警部はむしろ嬉しそうに気を昂らせ武装解除を命じる。沢田配下の署員が警棒から拳銃に持ち替えたのを見て男どもは観念し投降した。


 この頃冴木所長と溝呂木チーフは火災現場に赴き、消火器を撒いたりソフトボール大の消火剤をひたすら火元に投げると、火勢はみるみるうちに衰えていく。火勢もほぼ鎮圧状態になってようやく消防車が到着する。


 あとの消火を消防隊に任せた冴木たちは足早に沢田警部の元に向かった。


「おお、冴木さん! いやあ張り込みの依頼をいただいた時には半信半疑でしたが、これはとんだ災難でしたな!」


 短髪にいかつい体躯の初老の私服警官は、目じりを下げて冴木たちを出迎えた。その目つきを見れば、冴木たちの災難を見舞っているとは思えないような笑顔を浮かべているのはマスクをしていても容易に想像できる。その足元には捕縄ほじょうにがっちり縛られた四人の男たちが俯いて座っていた。


 沢田警部は二人を少し離れたところまで連れていくと、神妙な面持ちに変わった。


「あいつらは前科もある名の知れた荒事屋の一味でね。私も何度か関わったことがあるんですよ。冴木さん一体どんな怨みを買ったんですかい?」


 冴木としてはさすがに古くからの知己だからといって今回の捜査について軽々に口にする訳には行かない。


「それが全く見当もつかなくてね」


 と涼しい顔で答えた。するとマスクをしているのでよくわからないが、沢田の方でも何かを察したのかのような目つきを見せた。


「まあいいですよ。これから連中を絞り上げてやりゃあすぐに分かることです」


 応援に現れた警察官が四人の男を車に乗せ警察署へ連行する。沢田警部と配下の警察官、それと鑑識と消防が現場検証を開始。すぐに現場は物々しさと野次馬の喧騒で満たされた。


 冴木は現場検証の立ち合いを溝呂木に任せ、自身は試験棟に帰り高度精細試験装置の起動に専念する。間もなく起動に成功しそうだ。

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