第7話 尾行

 高度精細試験装置(HDTE)の起動には10時間ほどが必要だ。その間冴木と溝呂木と大島は下準備に専念する。


 また、檜山、浅川、伊能修央みちおの三人はオッター号で大永たいえい医器いき株式会社の張り込みを続けていた。


 オッター号は様々な改造を施し様々なセンサーや観測装置などの機器を取り付けてあるため、後部座席はドライバー側の右座席しか搭乗できない。


 コンビニで買い出しをしてきたサージカルマスク姿の伊能弟はエコバッグから食べ物を車内の二人に渡した。いずれもサージカルマスクをしている。二人のうち浅川と自分はあんパンと牛乳。檜山には三つものテリヤキバーガーに甘ったるい紙パックのコーヒー。


 後部座席に座った伊能はマスクを外すとわざとらしく不思議そうに問いかける。


「檜山さんはなんでテリヤキなんですか? あんパンなんですよね。張り込みの時って」

「ねー、日本の伝統なのにねー」


 二人で檜山をからかう。


「うっさい。あんパンなんかじゃいざって時力が出ないだろ。大体それは日本の“警察”の伝統だ。おっ」


 檜山が何かに気付いた。残る二人もその方向に目をやる。


 坊主頭で卵のような形をした顔の男が三人の若い男と社屋前に停めた看板のない大永たいえい医器の社用車に乗り込もうとしているのが見て取れた。


「あれが宇田川?」

「ああ、間違いないな」

「追いかけなくていいんですか? 何か企んでるのかも」

「分かってら」


 檜山はテリヤキバーガーを咥えたままエンジンをかけるとオッター号は社用車の尾行を開始する。


「野郎、どこに行こうってんだ」

「見当もつかないわね」

「いやだなあ、それを探るための尾行じゃないですか」


 三人で緊張感のない会話をしていると、次第に車は都心から離れていった。


 宇田川らの車は延々時間をかけ、山中の人けのない林道にまで分け入っていく。


「なんだここは。こんなところに何があるって言うんだ?」

「あっ」

「どうかしたの?」


 伊能の声を不審に思った浅川が声をかける。


「この先に三崎製薬という会社の試験場があるってカーナビに」

「三崎製薬?」

「確か大永医器の関連企業よね」

「そうか! そこに何か秘密があるんだな!」


 悪路にもかかわらず宇田川を乗せた車が速度を上げた。それを見た檜山もアクセルを強く踏む。


 まだ高校生の伊能修央がぼやいた。


「参ったなあ、明日のリモート授業の予習まだやってないんだよなあ」

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