第5話 内幕
冴木所長と溝呂木チーフが立ち去るとすぐ第4応接室に一人の男が入ってきた。
七十代後半の年齢、小太りの身体、薄い真っ白の髪、そして何よりも印象的なのは何かに怯えおどおどとした表情。
彼こそが
その背後から白衣を着た四十代の男も入ってくる。長く脂ぎった髪、眼鏡をかけた骨ばった顔に自信に満ちた目と人を見下したかのように歪んだ口元。社長は気弱そうな印象そのままにおどおどと話す。
「その、冴木所長はもう帰ったのかね」
「ええ、アルゲンマスクに疑義があると言いましてね。ひどい言いがかりですよ、全く。社長もそうお思いですよね」
何故か最後の言葉にひどく力が入る宇田川。それを聞くと大永社長は怯えた表情で俯く。
「やはり…… 科技験に気付かれた以上、も、もう無理じゃなかろうか……」
「いやはや。今、日本の医療と安全を支える企業の社長とも思えぬご発言ですなあ、嘆かわしいことですなあ」
大永社長の背後にいる白衣を着た男が、にやにや笑いながら挑発的な言葉を吐いた。
「し、しかしだね。SSTLが動いたのなら我々はもう……」
狭い応接室の窓から改造SUVに乗り込む冴木と溝呂木を眺める宇田川は、ポケットに手を入れて苦々しい表情を浮かべる。
「え? あいつら今なんて言われているかご存じですか? 謎や怪異を紐解き解明し解きほぐす、
宇田川は振り向くと社長に言葉を掛けるが、その口調はどちらが上司か見当もつかないようなものだった。
「社長。アルゲンマスクについてはご心配に及びません。私と酒井君に任せてくれたら悪いようにはしません。えぇ?」
「何を言っているんだ! そうだ! 酒井君! 君が、君が… 君があんなものさえ持ち込まなければ!」
振り向いた大永社長は初めて強い感情をあらわにしこの長身の白衣の男に怒りをぶつけた。
「社長お。俺がこれを持ってきた時あんなに目を輝かせたじゃないですかあ。ひどいなあ。人のことを棚に上げるだなんて嘆かわしい」
社長の言葉に動じることもなく、むしろニヤニヤして意に介さない酒井。一方で応接間のソファにドカッと腰掛け頭を抱える大永社長。
「ああ、どうする。あそこには高度精細試験装置(HDTE)がある。あれにかけられたらもう終わりだ」
「社長、え、相変わらず気弱ですなあ。ははっ。そんなポンコツで何が解るもんか」
オッター号の去った窓の外を眺める宇田川の目がすうっと細くなった。
「それとも、いっそのことほんとのポンコツにしちまいましょうかねえ、え?」
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