第26話
怪獣の背中の角のような突起、そして皮膚のひび割れが青白く輝く。
その初めて見る動きに対応できるように小刻みにクロックアップを繰り返して様子をうかがう。
そこに飛び込んできたのは飾磨だった。
「ブラジャスキッド、参上じゃんか。これからオレッチが何をしようとうろたえるなよ」
そう言って飾磨は親指を立て、怪獣に背中を向けると四つん這いになった。
異変を感じてクロックアップをする。
俺の鋭敏になった知覚が、怪獣よりも一瞬早く異変を嗅ぎとった。
「クサッ!」
「どうだ、オレッチのガス爆弾。これにはさすがの怪獣もこらえきれまい」
「お前はわざわざオナラをしに飛んできたのか!」
俺がそう叫んだ瞬間、少し離れた場所で超変形ダイナチック・ブラジャス・ロボは力が抜けるように崩壊していた。
怪獣は毒ガス攻撃にも怯むことなく、腕をふるって飾磨を跳ね飛ばす。
そのまま背を反らし、口の周囲に陽炎のようなゆらめきが現れる。
そして怪獣の口からビームのような青く光る粒子が発射された。
クロックアップの連続で集中が途切れ、逃げ場もなく、ただ身を縮こませるだけの俺の上に人影が覆いかぶさった。
怪獣の口から放たれるエネルギー波がその人影に直撃する。
「スッキリして身軽になったじゃんか!」
そう叫びながら飾磨が怪獣の膝の裏に体当りする。
怪獣はバランスを崩し、口から出たエネルギー波は斜め上に反れ、校舎をかすめて空へと消えていった。
俺は自分に覆いかぶさった人影を抱きしめる。
「魔王、なにやってんだよ。もう弱いのに、人間より弱いのに」
「強いとか、弱いとか、そういうのじゃない。仲間は守るものだろ」
魔王の言葉に胸の奥が熱くたぎる。
しばらくして顔に流れでた水分を腕で拭き取ると魔王を離れた場所まで抱えて行った。
「ありがとう。ちょっと休んでてくれ。倒してくる」
「見てるぞ」
俺が怪獣に向かって駆け出すと飾磨がちょうど怪獣の尻尾にしがみついて振り回されていた。
「尻尾も弱点じゃないなんて、一体どこが弱点なんだ」
俺は側まで近づくと一瞬クロックアップで加速して飾磨を助けだした。
「飾磨。いや、ブラジャスキッド、合体技だ」
「お、おう?」
「二人でブラジャスガイだろ?」
「シャシャシャケ……」
「前から思ってたけど、お前一度も俺の名前ちゃんと呼べてないからな」
「だけど、もう爆弾も残ってない」
「そうだ。何もない。技術も魔法も知識も。大して強くもない。飾磨に至っては普通の人だよ。オナラが臭いだけの普通の人間だ。だけどな、俺達には他の奴らには負けないもんがあるだろ」
「ひょっとして……毛深さ?」
「違う。ぜんぜん違う。俺は毛深くない!」
「なんだよ、他に思いつかないよ」
「根性だ!」
「よくぞそこに気がついた!」
「なんで急に上から目線になってるんだ」
「いくぜ相棒。遊びはここまでだ」
「お前、本当に遊んでる気でいたんじゃないだろうな」
「行くじゃんか! ツープラトンブラジャスリーソクラテス!」
俺は飾磨の手を握り、怪獣の方に放り投げる。
飾磨は怪獣のクビに足で組み付く。
「いい体勢だ、残り香をじっくり味わうじゃんか!」
飾磨の手を握ったまま、俺は力いっぱい下に引き下げる。
怪獣の身体が前にのめった瞬間にクロックアップして怪獣の足を払う。
宙に浮いた怪獣の身体を下から突き上げるように、俺は最大加速で怪獣の腹に攻撃を加えた。
怪獣は半回転し、頭から地面に落ちる。
怪獣は頭を打ったためか、動かない。
俺は怪獣の横に倒れた飾磨に手を伸ばし、立ち上がらせた。
俺と飾磨のもとに、崇蔓、可楽須、尖が駆け寄る。
その三人の顔がにわかに曇った。
振り返ると、そこには、ゆっくりと身体を起き上がらせる怪獣の姿があった。
絶望、そんな言葉だけが漂う。
二億院の陰に隠れた祝桜が声を上げる。
「とんでもない出力のオカルトエネルギーが集まってます! 生徒たちの興奮が今までにないほどの数値を叩き出しています。このエネルギーは召喚された勇者たちにも還元されるはず。もう計算の及ばない領域に突入してます」
崇蔓、可楽須、尖の三人は俺と飾磨の前に出て、顔を見合わせて頷く。
「こんな展開になったのは初めてですが、不思議と、負ける気がしません」
ジャージを着た尖が金剛杵を握りしめて言う。
「今こそ、我々の力を合わせる時だ」
崇蔓が光によって太く輝く剣を掲げた。
「全力でな」
可楽須が苦笑しながらメガネを光らせる。
三人はやがて、光り輝き、目を貫くほどの閃光と化した。
「アブソリュートブラジャスダブルサイドプラス!」
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