第25話

「おい、集まるじゃんか!」


 飾磨しかまが大きな声でみんなを呼び寄せる。


「なんだ」


 崇蔓すつるが不服そうに腕を胸の前で組んだまま問いかける。


「ついに切り札を出す時がきたじゃんか」

「あるのか、切り札が」


 可楽須からすがメガネを直しながら聞き返す。


「みんなの最後の願いである超変形ダイナチック・ブラジャス・ロボのコントロールユニットは壊れてしまった。しかし、まだアナログ起動が残ってるじゃんか!」

「そんな手が……本当にあったんですか?」


 学校指定ジャージの上着を着たなかなしが驚いた表情を見せる。


「そもそもなんでお前がリーダーになってるのか納得がいかないが」


 可楽須がそう言うと、飾磨はキッとにらみ返し、無言でメガネのレンズに指を押し当てた。


「クソッ! 指紋がついただろうが。なんてことすんだ」

「わかったか」


 飾磨は胸を張って答える。


「いいか、二度とメガネに指紋を付けるな!」


メガネを拭いてかけ直すと可楽須が凄む。

飾磨は怯まず可楽須の頭を掴むと口づけをするかのように顔を近づけた。


「あぁっ! クソッ! レンズに鼻の脂が! なんてことするんだ」

「わかったか!」

「わかった。わかったから、やめろ」

「こんな時のために緊急マニュアルを職員室でコピーしてある」


 飾磨は崇蔓、可楽須、尖に手折の小冊子を渡す。


「余にも」


 魔王がそう言った。


「助かるじゃんか」


 飾磨はそう言って頷くと魔王にも小冊子を渡す。


「よし、『超変形ダイナチック・ブラジャス・ロボのしおり』は行き渡ったか。今回は緊急だから一ページ目の主題歌と二ページ目の開発者のおもしろコラムは飛ばしていい。各自後で読んでおくように、そんで三ページ目。この合体マニュアルに従うじゃんか!」


 四人は黙って小冊子をめくる。


「では、ご唱和ください。『レッツ、ダイナチック!』」

「「「「レッツ、ダイナチック!」」」」


 崇蔓の肩に可楽須が両手を掛け、そこにまたがるように尖が乗る。

 さらに尖にしがみつきながら右側に飾磨、左側に魔王が崇蔓の肩に乗った。


「完成! 超変形ダイナチックブラジャスロボ、発進!」


 威風堂々な佇まいの超変形ダイナチックブラジャスロボが現れた。


「……で、どうするんだ?」


 しばらくの沈黙の後、可楽須が不安そうに聞いた。


「ちょっと待つじゃんか。二億院、写真とってくれ」

「もう撮ってます。もちろん動画も」


 スマホを構えた祝桜が二億院に代わって答えた。


「恥ずかしいから。絶対にネットにアップとかしないでくださいよ」


 尖がスマホから顔をそむけながら言う。


「というか、ここからどうするんだ」

「どうって、これで完成だよ。見ろ、あの怪獣の顔。完全にビビってるじゃんか」


 可楽須の苛ついた声に飾磨は答える。


「戦いは?」

「だから精神的に優位に立ってるじゃんか」

「それだけか!」


 そのやりとりの間に、俺は怪獣に校舎の側まで追い詰められていた。

 いくら瞬間的に素早く動いた所で逃げ場がなければどうしようもない。


「これは本当に最後の最後の切り札なんだけど、実はオレッチの体内には凶悪な爆弾が仕込まれてるじゃんか」

「そ、そんな話、初耳なんですけど」


 尖が声を上げる。


「今まで隠していてごめん。でも使うなら今しかないじゃんか。しおりの五ページ目。必殺技の項目のロケット・ブラジャス小型メカを繰り出せ!」

「自爆する気か。そんなことはさせんぞ」


 崇蔓が金髪を揺らし首を振る。


「見るじゃんか! シャシャシャケは戦ってるんだ。死ぬ気になって。もう、ほとんど死にそうな感じで。頼む、こんなモヤモヤを抱えて死にたくないんだ。オレッチの人生だ、スッキリさせてくれ」


 崇蔓は眉間にしわを寄せ、わずかにタレた優しげな瞳をゆっくりと閉じると頷いた。


「お前の死は、忘れん!」


 そう言って崇蔓は飾磨を抱えると怪獣に向かって思い切り投げつけた。


「こっちも発進しなさい」


 魔王が言う。


「ええい、ままよ!」


 続けて崇蔓は魔王を飛ばした。

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