第24話
「もうやめてください。無茶なんです」
確かにヒーロースーツは破れて傷だらけ。
顔も腫れて鼻血まで出てる。
みっともないとこの上ない。
「心配するな、格好悪いのには慣れてる」
「
魔王が叫んだ。
俺が見ると魔王は制服のスカートをまくり上げた。
白い太腿に挟まれた三角形が現れる。
「大切な人にだけ見せる、元気が出るものだ!」
いや、確かに元気が出るし、大切な人にだけ見せるものとは言ったけど、なんでこのタイミングでそんなことを。
怪獣に集中したいのにどうしても気になってしまう。
誰か魔王を止めてくれ、と思ったら
あの魔王に対処できるのは二億院しかいないし、常識人の二億院になら任せられる。
「笹咲さん。私も……及ばずながら!」
二億院は魔王の横に並び、制服のスカートをまくり上げた。
魔王のような元からつけていたハイレグ衣装などではなく、ただパンティとして作られ、パンティとして使われ、パンティとしてしか見れない布地が覗く。
「二億院様ぁ!」
瞬時に
「これで元気をだしてもらえるなら、せめて私に出来ることくらい」
「冷静になってください。笹咲めぇ~」
祝桜がじっとりとした目で睨み、呪詛の言葉を呟いた。
再び集中を取り戻した俺は加速を繰り返し、怪獣を惹きつける。
幸い、いままでの怪獣よりもサイズだけは小さい。
その代わり動きは早く、力も強い。
周りの者たちは離れたところで一箇所に集まっていた。
戦えない者を守るためにバリアを出した可楽須を崇蔓が魔法で治療している。
校舎の窓には生徒たちが張り付き、悲壮な表情で怪獣を見ている。
クロックアップすると知覚が鋭敏になる分、外部の情報がつまらないものまで流れ込んでくる。
そんな情報は無視して怪獣の動きだけに集中したいのだがそうもいかない。
服をゲロまみれにした飾磨が立ち上がり、二億院の脇のマイクを奪った。
ピーッ! という激しいハウリングで校内放送がつながった。
「見るじゃんか! 今、校庭でブラジャスマンが怪獣と戦ってる。そしてもう負けそうだ――」
飾磨の俺の必死さを嘲笑うような放送で校舎の窓は生徒の顔だらけになった。
「――新しく来たヒーローは今は戦えない。あいつらはすごい。最強のヒーローじゃんか。だけど、今戦えるのはブラジャスマンしかいない。知ってるだろ、ブラジャスマンは最強のヒーローじゃない。弱いんだ。弱い怪獣一匹にも苦戦する。格好悪く鼻血出しながら、勝ち目もないのに立ち向かっていく。短気で文句ばかり言うし、ろくなやつじゃない。見るじゃんか、あの顔。あの必死な顔。超面白い変な顔! それでもあいつはヒーローじゃんか。弱いけど、負けそうだけど戦ってるんだ。だから応援しなきゃダメだろ! オレッチたちの応援がなければアイツは勝てない。ただ見てるだけで勝手に勝ってくれる最強のヒーローじゃないんだよ。もう一度ちゃんと見てくれ、今戦ってるのは誰なのか!」
最大音量の校内放送はエコーを引きずりながら流れ、沈黙が訪れた。
校舎内にいる生徒たちの顔は困惑という感じだった。
そんな校庭に一人の影が躍り出た。
「負けないで! 頑張ってください! ブラジャスマン!」
全身で、声の限り叫ぶその姿は、二億院
この学園の理事長兼生徒会長。実質的な支配者だ。
「ブラジャスマン! 見てるぞ! 余はちゃんと見てるぞ!」
魔王が、声の限り叫ぶ。
あの圧倒的だった力は面影もなく、しかしそれでもなお高貴なイメージは損なわれていなかった。
「頑張れ、勝ちたまえ! ブラジャスマン!」
祝桜がそれに続く。
内心は俺のことが嫌いなのだろう、そのジレンマを振りきって声を上げていた。
校舎の方がざわつき、小さな声が聞こえた。
「がんばれー」
その小さな声は、やがて少しずつ大きく、そして数を増やしていった。
「がんばれ、ブラジャスマン」
「負けるな」
「頼んだぞ」
口々に応援する声が増え、窓には拳を上げて叫ぶ生徒たちの姿が並んだ。
本当はウーパーシルバーバレットなんだけど、そんなことはどうでもいい。
身体の中を熱いものがこみ上げてくる。
クロックアップの処理速度がどんどん加速していくのがわかる。
怪獣の動きがほとんど止まっているように見える。
俺は怪獣の身体の上を駆けまわり、パンチやキックを連続して食らわしていく。
すでに大合唱というような応援の声が響く中、二億院たちは崇蔓たちの元へ避難していった。
「ボクだって本気を出せば……」
苦痛に顔を歪めながら可楽須が言う。
「それが難しいのですよね。どんな時でも躊躇せず全力を出すのがどれだけ苦しく、大変なことか知ってますでしょ。可楽須さんも自分の才覚で会社をここまで大きくした人なのですから」
二億院がそう言うと、可楽須は観念したように苦笑して言った。
「今のボクは、輝いてなくても楽して勝つことを選ぶだろうね。賢くなりすぎてしまったようだ」
崇蔓が可楽須の足を治療し終えたようだ。
しかし俺は怪獣の大きい上に素早い動き、不気味に伸びる手足に硬い皮膚に苦戦していた。
クロックアップで攻撃を避けようにも、予測がつかない動きに翻弄される。
攻撃を受ける瞬間にクロックアップして防御態勢を取り、かろうじて避けてはいるものの、攻撃の手立てが何もなくただ疲労と負傷だけが増えていく。
クロックアップのスピードも最高速までは維持できなくなってきた。
せっかくの応援の声に報いたいが、どうにもならないジレンマが身を焦がす。
可楽須のレーザーも通用しなかった怪獣に俺が一体どんなダメージを与えられるというのか。
それでも、俺がこうして戦うことには意味がある。
その信念だけが身体を突き動かす。
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