第13話
鳴り止まない拍手と声援の中、その喧騒に驚いたかのように、手足、尻尾のちぎれた怪獣がのたうつように暴れ始めた。
一瞬にして生徒たちの声が静まる。
「このやりとりも飽きたからと言ってスルーはできないのが面倒くさいね。重要なプロセスだから」
キャスケットを深くかぶった背の低い
「手負いの怪獣は、より危険だぞ」
「ご忠告感謝します。でも大丈夫。これをやるのは十四回目ですから。わざわざ派手に魅せつけるのも億劫ですけど。尖
尖は走って怪獣に近づく。
そのスピードは決して早いとは言えず、超人的な能力とは言いがたいものだった。
しかし、苦痛で暴れまわる怪獣の、読みようのない動きをまるで測ったかのように交わして尖は怪獣の手の届くほどの近さでステップを踏む。
片足の無くなった怪獣がバランスを崩して脇腹から倒れる。
全長十数メートル、重量は大型トレーラーほどの怪獣に押しつぶされたら、どんな人間だろうと生きてはいられない。
尖は、倒れこむ怪獣の脇の下辺りに位置を取ると、懐から小さな鉄アレイのような、筒状の端に爪のついた武器をとりだし怪獣を切り裂く。
臓物や体液なんていうものではなく、黒い闇の粒子みたいなものが怪獣の傷口から溢れ出る。
尖は傷口に腕を突っ込むと身体を沈める勢いを利用して何かをへし折った。
怪獣はそれきり動かなくなった。
「楽しませられなくてごめんなさい」
僅かに頬を上気させて尖は呼吸を整えながらそう言った。
「その
「そうです。以前可楽須くんから頂きました」
「バカな。君のことは知らないし、人にあげるわけなどない」
可楽須がそう言うと尖はキュッとキャスケットのツバを揺らしゆっくりと頷く。
「確かに。まだ僕と可楽須くんとは知り合って間もないですからね。でも共に戦った仲なのです。僕にとっては過去。あなたたちにとっては未来」
教え諭すような優しい口調で尖はそう言った。
「全然わかんねーが?」
俺が不服そうにそう言うと、崇蔓も可楽須も同意するように頷いた。
「つまり僕は十四周目なんです。この時空を十四回やっている。ここから、全てが終わるまで」
「ということは、未来人?」
「未来人というのとも少し違います、この時空だけしか知らないですからね。RPGなどのゲームでクリアした後に、データを引き継いだ状態でもう一度ニューゲームを始める、そんな感じですかね」
「ならばお前はこれから何が起こるのかわかってるってことだな?」
崇蔓は腕を組んで尖に見下ろす。
背の低く華奢な尖と背が高く均整の取れた肉体の崇蔓とが並ぶと大人と子供のようだった。
威圧感のある崇蔓に対して、尖はニカッと初めて見せるような笑顔を作った。
「そういうことです。だからあの怪獣のどこが死角で、どこが急所だかも知っていただけ。特に力があるわけじゃない。ただ、毎回全く同じ繰り返しというわけでもないんです。自分が選ぶ選択肢によって変わる部分もあれば、最初から齟齬がある部分もある。例えば、僕が編入したクラスの生徒は毎回少し違っていますから」
可楽須が自分だけ納得したように深く頷いて聞く。
「そんな繰り返し、飽きないか?」
「元々こういうのを面白いと思える
「そりゃチートだな」
可楽須は苦笑いして言った。自分の力に自信があるせいなのか、言いながらも余裕が感じられる。
「そう。神の力も権力もない。ただのチートです」
共感するように笑顔で返す尖に可楽須は鋭い視線を隠すように、メガネを直して聞いた。
「ということは、怪獣のこともわかっているわけだ。これからどうなるかも」
「そうです、僕だけは知っています。でも教えませんよ」
「なんだよ、教えてくれてもいいのに」
「何度か結果や行く末を明かしたことがあったんですけど、そっちの方が余計な手間がかかって大変だったんです。別に僕は苦労を楽しむほど酔狂じゃないし、あなたたちの精神的余裕のために自らを犠牲にするほど優しくもないですから」
尖は、丁寧な言い方ながら、どこか苛虐的な表情で言った。
「上等だ。どんな困難が起きた所で別に俺は構わない。むしろ大歓迎だ」
崇蔓がまるでヒーローのように頼もしい返事をする。
「ボクも右に同じだ。退屈な勝利のためにわざわざ呼ばれたとあっちゃぁ、そっちの方が悲しい」
可楽須も皮肉の効いた言い回しで余裕の表情を作る。
俺は何も言えなかった。
ただ、その場に取り残され、何もできなかった。
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