第12話
生徒会棟がチカッと光ると、地響きがして、滅多に鳴らないサイレンがけたたましい音を上げる。
怪獣、それも危険なレベルのやつが現れたのだ。
生徒会棟はすでに半壊し、怪獣の姿が確認できる。
そこには巨大な怪獣が二体いた。
二体の怪獣は、鳴り響く警報をBGMにするように校庭に歩を進める。
校庭にまで出るのは緊急事態なので、生徒会の操作で、校舎に鉄柵が張り巡らされ、校庭が沈み込んだ。
いざという時のための防御システムだけど、怪獣が本気を出したら焼け石に水だろう。
休み時間のため、生徒たちが窓際に張り付き怪獣を見る。
教師たちは一応避難を呼びかけるが、毎度毎度のことなので危機感が麻痺しているようだ。
10mほど沈み込んだ校庭は、ちょうど熱狂した観客が覗き込むコロッセウムのようになっていた。
俺は生徒たちの間を縫って駆け抜け、校庭まで一気に走った。
二体の怪獣は咆哮を上げ、お互いに鼓舞しあっているようだった。
その手前には、なぜかすでに三人の例の勇者たちが揃っていた。
「やれやれ。やっぱりか。来るなと言っても来るんだろうな、とは思っていたよ」
「遅かったじゃないか。わざわざ歩いてきたのかい? だけど悪いことは言わない。ここから出て行くことだ。ここには君にできることなんて何一つ無い」
「二体もでてきたんだぞ、いがみ合ってる場合じゃないだろ」
俺が声を上げると、崇蔓がやわらかな金髪をなびかせて振り向いた。
「やれやれ、言ってもきかないか。なら、そこで見ていてくれ。すぐ一体倒してみせよう」
「バカ言うな。一人でどうにかなるもんか。怪獣を甘く見過ぎなんだよ」
「力を見せるいい機会だ。身体に神を宿す男のな。俺の世界では選ばれた人間は、才能、そして修練によって神を宿すことができる。神といっても様々だ。日用品の神から厄神までいる。そして本来一人しか宿らないはずの神がこの俺には二人いっぺんに宿った。一人は剣の神ゴルマンティ、もう一人は魔法の神ラシャリン。世界の創世戦争で二つの陣営の首領となった二神を宿す男、それがこの俺、崇蔓
剣を抜く動作で自分の身体の三倍ほどの巨大な剣を出す。
手を前に掲げて動かすと、剣から虹彩が溢れ、怪獣の動きが粘性の液体に浸かったように鈍くなった。
一気に駆け寄ると崇力は剣を素早く切り結ぶ。
一つが二つ、二つが四つ、四つが八、十六、三十二……。
細切れになった怪獣の破片が宙を舞う。
「我に従えし火の精霊よ。エサの時間だ、悪しき肉体を滅せよ! リインカネーションギガバーニンッ!」
崇蔓の手から豪炎が迸り、破片に喰らいつくと、一瞬にして燃え尽きて煙となった。
圧倒的だった。
思わず言葉も出ずに、その一方的な怪獣退治に見とれてしまった。
「なるほど。思ってた以上だ。こうでなきゃ、ボクとしても張り合いがいないね」
崇蔓のとんでもない強さを見て、可楽須がメガネを指でクイッと上げながら言った。
確かに崇蔓はすごかった。
けれど、そんな人間が何人もいるわけがない。
俺にだって今までは学園で圧倒的な能力を持ったヒーローとしての誇りがあった。
怪獣は残り一匹になったけど、その一匹の怪獣がどれほど恐ろしい存在か。
「ちなみに言っておくけど、ボク、可楽須
「は? ただの人間って、普通の?」
虚を突かれて思わず気の抜けた表情で聞き返してしまった。
「そう。神なんてものもついていない。君のように超人でもない。世界一頭がイイわけでもなく、力などむしろ平均以下だろう。見ての通りの一般人さ」
「そんな一般人がどうするつもりだ。相手は怪獣なんだって! 俺だって苦戦するんだぞ」
可楽須は肩をすくめると、残った怪獣に向かってスタスタと近づいていった。
無警戒に近づく可楽須に気づき、怪獣は唸り声を上げて尻尾を振り回した。
尻尾の一撃が可楽須に当たるかと思った瞬間、彼の目の前で見えないガラスが光る。
「質量のある無物質を一時的に生成する技術だ。俗物的に言えばバリア」
怪獣が体勢を建て直して可楽須に向かおうとした時、ボロボロと砂の城が崩れるように怪獣の尻尾が溶けていった。
「さっきの一瞬で尻尾からナノメカウィルスが侵入し、内部から破壊してるってわけさ」
「何言ってんだ。それはなんだ? 魔法か?」
「魔法かって? 否定はできないな。いささか派手さに掛けたようなので、レーザーでも出しておこうか」
可楽須が眼鏡のツルを触り、何やらつぶやくと、背中に背負っていた薄いバックパックから圧縮空気と共に何かがすごい勢いで飛び出した。
一旦上空に舞い上がり、ゆっくりと広がりながら降りてきたそれは、ボールペンのキャップほどの小さな円錐状の物質だった。
その物質と物質の間を光の線が結び、ゆっくり動きながらその光は怪獣の身体を横切る。
けたたましい怪獣の叫び声と共に、怪獣の腕が落ち、地面を揺らした。
「ざっとこんなものだ。ボクに力はないが、力はボクの元に集まってくる。世界の軍事技術の粋はボクの作った会社、ハルインダストリのものだ。その社長というだけのただの一般人なんだよ」
俺は目の前で起こっていることの意味不明さに瞬きすら忘れて口を開いたままだった。
崇蔓が怪獣を倒した時には、その圧倒的な力に校舎から顔を出して見物している生徒たちは言葉を失っていたが、二度目の可楽須の圧勝に余裕を持ったのか、万雷の拍手と声援が舞った。
「社長? 高校生じゃないのか?」
「学生起業家ってやつさ。もっとも、起業をしたのは小学生の頃だし、その頃はここまで会社がでかくなるとは思っても見なかったけどね」
可楽須は、少しはにかんだような、それでいて自慢げな表情でメガネを直しながら答える。
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