第3話
「俺が呼ばれたということは、また怪獣がでたんだな」
「怪獣の出現はやむなきことなのです。私たちの未来の為になさなくてはならないこと。あなたの強さに、勇敢さに、頼りすぎてしまっていることは謝ります」
そう言われて悪い気がする奴なんていない。
俺は口の端が上がって笑ってしまうのを抑えつつ、極めてクールに答える。
「俺だって、こんな力は怪獣が相手でもない限り使いようがないからな」
あの世界の二億院コンツェルンを継ぐものと目されていて、親からも帝王学を身につけさせられている。
その一環として与えられた、この界端学園で二億院白空は親の期待以上の結果を出していた。
二億院白空の掲げた目標は、若者の時代を取り戻すことだ。
大きな争いもなく安定した世界、医療も進み少子高齢化は先進国では当然のこととなっていた。
財力や権力も、労力、人口すら多い大人の世代に対して、若者たちはあまりにも無力で希望を抱くことすら難しかった。
ネットにより世代を超えた情報の共有ができるようになると、『大人になること』への憧れも、厳しい現実にさらされて消え失せる。
その現状を憂いて二億院白空は立ち上がった。
オカルトという禁断の手を用いて。
若い世代が時代の主軸となるためには、力が必要だった。
説得や情などではなく、対等に土俵に上がり、権利を勝ち取るだけの力。
若者が大人たちよりも優れている部分、妄想、情緒、衝動、持て余し制御できなくなる感情エネルギー、それをオカルトの技術で顕在化したのだ。
すでにこれにより生み出されたエネルギーは、世界を支えるためになくてはないものとなっており、権力や財力を生み出している。
これにより得た富や力は、若者の世代に再分配され、スポーツや学問、はては政治や経済の世界にまで、大人の手の平の上ではなく対等な力を持って挑む若い世代が増え始めていた。
しかし二億院白空は、若者が大人たちに対抗出来るだけの力にはまだ不足と考え、常に新しい力を求め続けていた。
このオカルティックな力は、若者の情緒や衝動という未成熟な部分を原動力としているために極めて不安定で、時に澱のような形でその不安定さが具現化することがある。
それが怪獣だった。
怪獣と呼ばれるだけあって、その暴力の塊は人間が制御できるようなものではない。
そこで呼ばれるのがこの俺だ。
俺がヒーローとしての能力を獲得したのも、皮肉にも二億院白空が携わったオカルト技術の実験の事故の産物だった。
クロックアップと呼ばれるこの能力は、感覚、知覚を鋭く高め、処理スピードを大幅に上げる。
同時に、そのスピードで活動するだけの筋力、骨格を得て、通常の人間の目には止まらないスピードで動くことができ、力も強く、打たれ強い肉体になっている。
その力を駆使して怪獣を倒した時、この俺、ウーパーシルバーバレットは界端学園のヒーローとして認めらた。
二億院白空からは学園の秩序と平和の象徴としてオリジナルの防御力に優れたスーツを授けられた。
なぜかヒーロースーツの胸にはLOVEと意にそぐわないデザインがされているが、二億院が直々にデザインしたらしいから文句も言いづらい。ヒーローは愛を胸に抱くという意味では納得もできる。
何より普通の服で最高速まで加速して動くと、空気摩擦で服が千切れ飛んでしまうのでこの格好になるしかないのだ。
俺が生徒会室に呼ばれる時、それは怪獣が出た時であり、学園の平和が脅かされる時なのだ。
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