第4話
「実は今回は怪獣ではありません」
「は?」
俺が肩透かしを食らったような間抜けな返事をした所で、
「我々は、常々
「オレッチもいるじゃんか」
「実務において替えの効かない運用は好ましくない。ゆえに、抜本的な解決を図るべく、怪獣に対する有効な抑止力をと考えたのだ」
「はー、なるほど。オレッチはよくわかったけど、シャシャシャケはピンときてないからもうちょっとひらがな多めで言ってくれる?」
「わかってるよ」
「嘘つけ。バッポンとか全然わからないだろ。確かポルトガル語だぞ」
俺と飾磨のやりとりに祝桜は目頭を指で抑えて短いため息を吐いた。
「他の存在に怪獣を倒してもらおうとしたのだ」
「おいおい、別に俺は今までのままで構わない。それに、クロックアップという能力を手に入れた俺でも苦戦するんだ。他のやつなんかじゃ無理に決まってるだろ」
祝桜は俺の言葉を断ち切るように短鞭をビュッと音を立てて振った。
「なにより。一般の生徒が、生徒会室に入り浸り、二億院様と距離を縮めすぎる、それこそが憂慮するべき事態なのだ」
「それは構わないのではないでしょうか。笹咲さんはこれまでもとても頑張ってくれましたし、私たちにとってなくてはならない存在なのですから」
二億院が祝桜の言葉に丁寧なフォローを入れるように反論する。
「いいえ、この件は何度も注進してきたつもりです。二億院様にとって特別な存在などというのはあってはならないのです。絶対であり平等であるからこそ、人々は二億院様を慕うのです。変な噂など立っては困るのです」
祝桜が毅然とそう言うと、二億院は顔を俯けて眉尻を下げる。
二億院に向かってこんな発言ができるのは祝桜だけだし、こんな表情の二億院を見れるのはここにいる者たちだけだ。
「私は迷惑とは思っておりません。皆さんに親しみを持っていただくことも大切ではありませんか」
祝桜の言葉は、常に二億院を立て、この学園を思ってのものではあるが、いかんせん過激なのだ。
二億院の他人に配慮する心、善き模範として振る舞おうとする思いとは時にぶつかり合う。
しかし、祝桜は二億院に対し意見をいうことは多いが、決して取って代わろうなどという野心は持っていないらしい。
それは二億院の能力を認めていることもあるし、きちんと敬意ももっているからだ。
なにより、支配者になって色々な責任を伴うよりも、作戦を立案して実行させることの方が面白いらしい。
二億院も祝桜の忠誠と能力は認めているので、二人が言い合っていてもどこか微笑ましい感じがする。
その言い合いに、飾磨が口を挟んだ。
「そうだ。二億院がオレッチのこと好きだと言う噂が立つかも知れないじゃんか!」
「それは迷惑です」
瞬時に二億院は答えて、その後、陶器のような白い肌がじんわりと赤面した。
「待てよ。俺をどうするか、じゃなくてそもそも怪獣をどうするか、が問題なんだろ。で、俺以外に使えそうなやつを呼んだって話で」
話を引き戻すように言うと、祝桜が答える。
「そうだ。しかし不安定な召喚技術のため、思いもよらないVIPが現れてしまった。これは我々の過ちであることを素直に認めよう」
「頼れるのは笹咲さんしかいないのです。あなたなら、なんとかしてくれると信じています」
二億院のその言葉に安堵し、あえて余裕を見せるため微笑んで尋ねた。
「そんなことだろうと思ったよ。一体どんな相手なんだ、そいつは?」
二億院がスイッチを操作すると、壁が開きその奥に一人の女性がゴシックな装飾の椅子に座っていた。
目の前の壁には、いくつもの画面が並び、テレビか映画が同時に流れている。
女性はそれを見つつも、手にしたタブレットを操作している。
「女?」
燃えるような赤い髪型はゆるくカールして今風なのだけど、そこから太いヤギのような角が二本生えていた。
紫色の瞳をキョロキョロさせて過剰に降り注ぐ情報を全て受け止めている。
着ている服は、学校にはまるでそぐわない水着のような露出度の高いもので、肩から胸のあたり、そしてお腹の周りと肌色率の高い格好だった。
「ぎゃー! なんて格好だ! エロい。極上にエロいじゃんか! シャシャシャケ気をつけろ骨抜きにされるぞ」
飾磨が両手でまぶたを抑えながら海老のように背後に飛び退いた。
「こいつがそのVIPってやつ?」
俺が怪訝な顔でそう聞くと、二億院は長くバネのような黒髪を揺らし頷いた。
「異世界の魔王様です」
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