第2話
生徒会室は学校の校舎からは離れたところに特別に作られた三角柱型の新しい建物にある。
この建物には生徒会室と生徒会に纏わる部屋しかないので通称生徒会棟と呼ばれている。
大きさは校舎の半分ほどであり、体育館よりも大きい。
その全ては生徒会によって使われているが、会議などに使われることなどほとんどなかった。
俺と
広いがらんどうの空間。
生徒会棟と言ってもいくつかの役割を持った部屋に分かれており、ここは玄関のようなもので奥はシャッターで閉ざされ、他の部屋に通じる鉄の厚い扉、そして階段などしかない。
「正義と勇気と内申書の味方、ブラジャスキッド、ここに参上!」
背中から飛び降りた飾磨がポーズを決める。
「ウーパーシルバーバレット。呼ばれたから来たぞ」
「そんな名乗りじゃ勝てるもんも勝てないじゃんか。戦いは遊びじゃないんだぞ」
飾磨の文句を聞き流しながら、俺は背筋を伸ばして片手を上げて挨拶をした。
目の前には
腰まで伸びるクルクルと巻いた黒髪の女子生徒だ。
俺たちを待つ姿も、かかとを揃え背筋が伸びている。
手を前で合わせ、俺を見据える二億院は微動だにしなかった。
押し黙ったままキキリと結ばれた赤い唇と尖ったアゴに意思の強さを感じる。
「二億院様」
隣にいた
「二億院様!」
再び祝桜が手に持った短鞭で音を立て、二億院に今度は大きめな声をかける。
二億院はピクンと眉を僅かに動かすと、咳払いを一つして、凛々しくも柔和な表情を作った。
「失礼しました。少し考え事をしておりましたので」
「いつも大変だな、ちゃんと寝てるのか?」
俺は二億院を気遣い優しい言葉を掛ける。
なぜならヒーローだからだ。
「言葉遣い!」
二億院が返事をする前に、祝桜が黒目がちな目をキッと向いて鞭をふるう。
小学生にすら間違われるほど、背が小さく、切りそろえたショートボブに、あどけなさの残る表情。
しかし、その口から出る言葉は、容赦の無いものが多い。
誰かを殴るわけではないが、空を切る鞭の音は威圧的で、普通の生徒なら怖がるところだ。
二億院はそんな祝桜を片手でやんわりと抑えるように制して言った。
「また、あなたの力を頼ることになりました」
「オレッチの力もだろ」
飾磨が口を挟む。
二億院は目を細め、柔らかく口角を上げると頷いた。
「飾磨さん。あなたは
「もちろん余裕じゃんか!」
二億院の言葉に飾磨は破顔して拳を上げる。
これだ。
飾磨の性格を見抜いて士気を揚げる言い回し。
普段、周りの者からバカにされている飾磨にしてみればこれ以上ない言葉だろう。
二億院白空は、この
そして、副生徒会長で常に二億院の側にいる参謀が祝桜鈴だった。
生徒会だけに及ばず、この学園のすべてを取り仕切っているのは実質この二人だ。
威圧的なそのシルエットに反して、二億院の大きく少し垂れた瞳はどことなく慈愛を感じさせる。
実際に、誰もが二億院に会って話をすると目を輝かせる。
言って欲しい言葉だけではなく、時に厳しく、自分自身を見つめなおすような発言も交え、それでもなお期待して、もちろん報いたものには褒めてくれる。
驚くべきことに、この巨大な学園の生徒すべての名前や境遇を覚えているらしい。
少なくとも、この学園には二億院に頼み事をされて、断るような奴はいない。
もちろん、この俺も二億院の力は認めている。
なによりも俺をこの学園のヒーローと認めたという辺り、見る目がある。
「飾磨、スタンプカードは持ってるか」
「当たり前じゃんか。あ、ちょっと汗でシオシオになってる」
そう言って飾磨は腹部に巻かれた防御用の腹巻きからカードを出す。
祝桜はそれに『超えらい!』と印字されたハンコを押した。
「この間、骨にヒビが入っただろ。その分サービスだ」
祝桜がそう言ってカードを返すと、飾磨はそれを掲げて「おおー!」と小躍りする。
別にこのスタンプカードはハンコを集めると何か景品に交換されるとかそういうものではない。
ただハンコが押されるというだけだ。
しかし、飾磨はことのほかこのシステムが気に入ったらしく、尋常ではない喜びようでハンコを集めている。
ハンコのためなら死すら厭わないくらいの勢いだ。
こういう餌で釣るようなことを考えるのは祝桜だ。
二億院が性格的にも、人格的にもできないダーティなこと、例えば有利な状況を得るために誰かを切り捨てなければならないような決断に関しては、祝桜がサポートをする。
その他人に対して容赦の無い、しかし憎らしいほど効果的である作戦立案に関しては祝桜の右に出るものはいない。
この最強の二人が支配する学園こそ、未来の希望であると世間から言われる所以である。
そして、この学園にはヒーローがいる。
怪獣を倒すためのヒーロー。
すなわち、この俺、
通称ウーパーシルバーバレットだ。
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