ヒーローの資格
亞泉真泉(あいすみません)
第1話
ヒーローとは、信念の下、逆境に立ち向かい、傷ついてもなお立ち上がり、救われた者たちに勇気を与える存在だ。
この高校にはヒーローがいる。
それはこの俺、
またの名を、ウーパーシルバーバレットと言う。
プツッ、という短いノイズ鳴り、校内放送がスピーカーから流れだす。
「1年3組、笹咲十慈さん。1年3組、笹咲十慈さん。速やかに生徒会室まで来るように。繰り返します。1年3組、笹咲十慈さん。1年3組、笹咲十慈さん。速やかに生徒会室まで来るように」
授業中にもか関わらず呼び出されたこの俺をクラスのみんなが見る。
うっとおしい視線を跳ね除けるように前髪をかきあげ、手早く筆記用具をしまって席を立とうとすると、教室のドアを開いて
「怪獣だ。ブラジャスガイ、出動じゃんか!」
激しい動きのため
高校一年にしては背は低いが、ひっきりなしに動いているため、黙っていてもやかましい。
飾磨の滑稽さに、教室の中では失笑が漏れる。
しょうがないやつだとは思うけど、ヒーローである俺への憧れを止めることはできない。
教卓を見ると、先生はいつものことだと黙って二度頷いた。
颯爽と教室を出ようとしたところ、一人の生徒がつぶやくのが耳に入った。
「俺もヒーローになれば授業サボれるのになぁ」
その発言に、周囲の者達が同調するような笑い声を立てる。
俺は人の目には捉えきれないほどのスピードで加速すると、その発言をした生徒の目の前に移動した。
「だったら代わりに怪獣と戦ってくれるか?」
顔を近づけてそう言うと、生徒は引きつった顔でのけぞり視線をそらす。
教室も一瞬で静まり返り、クラスメイトたちは表情が固まり恐縮していた。
「
廊下から叫ぶ飾磨の言葉で俺は視線を逸らした。
どうせ笑ったのは口ばっかりで戦う覚悟もない、いざとなったら助けを乞うて逃げ出す奴らだ。
この学園の平和と秩序を背負ってる俺の前で何も言えるわけがない。
不愉快なノイズを無視して俺は教室を出る。
廊下を走りながらシャツを脱ぐ。
その下には、赤いラバースーツ。
脇にはストライプが走り、胸には黄色でLOVEの文字がオレンジのハートマークの上に描かれている。
白く太いベルトに、背中には腰までの長さの黄色い縁取りをした白いマントが翻る。
その姿、ディス・イズ・ヒーローと言わんばかりの完璧なコスチューム。
「待てぇ~! 廊下は走っちゃ駄目じゃんか」
飾磨はそう言いながら全力で廊下を走って追ってきた。
胸にSHIKAと描かれた青いお手製のTシャツを着てマスクのように目の開いた青いバンダナをつけている。
「呼ばれたのは俺だけだ。飾磨は授業受けてろよ。どうせ役に立たないんだから」
俺がそう言い捨てても、飾磨が聞きやしないことなんてわかってる。
立ち止まった俺に飾磨は追いつくと、背中に飛びついてきた。
「何言ってるんだ。ブラジャスマンとブラジャスキッド二人合わせてブラジャスガイだろ。ブラザー、ジャスティス、野郎ども。なんだから」
「そもそもそんなブラジャーみたいな名前認めてない。ウーパーシルバーバレットが公式の名前だ」
「ブ、ブラジャー!? そんなエロいこと考えつくなんて変態じゃんか!」
「そんなにエロくないだろ。どこまで純情少年真っ盛りなんだ、お前は」
背中に飾磨の乗せたまま、さっきよりも速いスピードで廊下を駆け抜ける。
「生まれてこのかたブラジャーなんてつけたことなかったもん」
「俺がブラジャーつけてるみたいな言い方するな」
「でも考えてみればサイドキックはヒーローがその強大な力を持て余した時にこそ輝く存在、つまりブラジャーみたいなもんじゃんか!」
「場当たり的にそれっぽい解釈すんなよ」
飾磨は背負われながら、両手を俺の胸に優しく添えた。
「オレッチはこれからブラジャーのようにシャシャシャケを助けていくからな。どんな時でも肌身離さずに連れて行け」
「やめろ、気持ち悪い。どうせ、ダメだと言ってもついてくる気だろ」
「当たり前だ。それに一番大事なこと忘れてるじゃんか」
「なんだよ、大事なことって」
「オレッチの授業、数学じゃんか」
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