第22話
光とともに成体になった怪獣が現れる。
幼生体の頃に比べたら大きさは小さくなっていた。
二足歩行で二本の腕、背中には羽なのか角なのかわからならない突起が付いている。
頭は体の割に小さく11頭身くらいだろうか、シルエットは人間に近い。
ただし、身長は5mを超える大きさだ。
頭についた突起や襞、金属的に光る皮膚と毒々しい色合いの体毛。
真っ先に思いついた印象は、悪魔だった。
そう考えると、魔王も初めてみた時は悪魔的だと思ったものだが、禍々しさの度合いが違う。
魔王の放つ恐怖は巨大な山のような威圧感、対して目の前の怪獣は業火。
存在だけで周囲に影響を与える恐怖だった。
魔王の持つ、女の子のような生易しい要素などまるでない、古来から人間が想像してきた悪魔の姿、それがそこにいた。
冷気なのかガスなのか、怪獣の口のあたりから吐出される呼吸は煙のように見える。
「やっとそれらしいのがでてきてくれたじゃないか。こうじゃなきゃ困る。約束通り、ボクが一番最初に手を付けさせてもらうよ」
そう言って可楽須はメガネのツルをさわる。
「頼むから一撃で終わらないでくれよ」
そういうと可楽須の背負っていた薄いバックパックから小さな円錐状のレーザービットが飛び出した。
虫の羽音のようなバイブレーションを鳴らしてビットが舞い、お互いをレーザーでつないだ。
レーザーが怪獣の身体に触れようとした時、ビットがその小ささからは想像できないほどの爆発をした。
「なっ?」
可楽須が爆風を受けて後ろに転がった。
怪獣は、身体の周りの羽虫に今気づいたかのようにゆっくりと視線を動かす。
「大丈夫か?」
声をかけると可楽須は嬉しそうに口の端を上げながら不敵に笑って立ち上がった。
「なるほどね。偏光を超高速で切り替える技術か。なかなかいい発想だ。まったくやってくれるよ」
「やっぱり無理なんだ。下がれ」
「この程度でピンチだとでも? むしろこのくらいでないと困るよ。さて、そろそろ本気をだすか」
可楽須はメガネのツルをつまみ、短いコマンドをつぶやく。
「ショックに弱い人はちょっと下がっていたほうがいい。決定的瞬間を見逃したくない人は、グラスディスプレイを貸そう。強力な光源からも目は守れる。誰も欲しい人はいないのかい? わかった。じゃ、一瞬目をつむっておきなよ」
そう言って可楽須は俺たちに語りかけると怪獣に向き合う。
「アクセプト!」
目の前に光の柱が現れた。
それは地面から天高く伸びる光だった。
やがて光は細く糸のようになり消える。
怪獣がいた場所には深いきれいな円形の穴が穿たれていた。
上を見れば生徒会室の屋根はその光の柱があった部分だけ穴が広がっていた。
「レーザー衛星っていうのは聞いたことがあるだろ。古いSFでお馴染みのやつだ。別に技術としてはそれほど難しいわけじゃない。ただ我が社の売りは、その操作を簡易にしてコストを劇的に下げたところだね。今ので一発110万。ミサイルなんかより全然安いしハズレたりもしない。って、こんなところでセールストークをしてもしょうがないか」
可楽須は周囲の緊張を和らげるようとしているのか饒舌だった。
怪獣のいた場所にはポッカリと穴が空いている。
脅威はこれで去った。
と思った瞬間、穴から黒く大きな影が飛び出してきた。
仁王立ちするその影は、まさしく悪魔、さっきの怪獣だった。
上空からのレーザーが直撃した頭部や肩から体液が溢れ、ぶくぶくと泡立ち皮膚を修復していた。
「くそっ! 何なんだお前!」
そう言って可楽須は足首に装着していたシリンダーを怪獣に投げつける。
怪獣の足にシリンダーが刺さると、そこからナノメカウィルスが侵食していく。
皮膚の色が変わり、ボロボロと崩れていく。
「ははっ、ざまあみろ!」
可楽須は吐き捨てるように顔を歪めて笑った。
しかし、膝の所まできたところで、逆に侵食は下がり足も元の色に戻ってきた。
「中和!? そんなことありえない」
ウィルスはそのままつま先まで追い詰められて消えた。
そこで可楽須が場違いな絶叫する。
「うわぁー!」
可楽須の左足にウィルスが侵食してきたのだ。
「なんだ、解除コードが効かない。なんだよこれ、やだ、助けてくれ」
尻餅をついたまま可楽須は腕で後ずさる。
キンッ。
と金属質な音がしたかと思うと、可楽須の横には崇蔓が立っていた。
その手の光輝く突剣は厚さを増し、巨大な太刀になっていた。
そして可楽須の足は太腿から先が切断され、切られた足は長年の風雪に晒されたかのように崩れ落ちた。
「やれやれ。大騒ぎだな、安心しろ。そのくらいあとで治してやる」
そう言って不敵に笑うと、崇蔓は太刀を構えて怪獣に対峙した。
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