第21話
生徒会室につくと、すでに例の三人は集まっていた。
そして怪獣が一匹。
だが様子がおかしかった。
三人の内、誰も戦おうとしていない。
「笹咲さん、なんで来たのですか」
二億院は唇を震わせ、厳しい口調でそう言った。
「来ないではいられなかったんだ」
「私を試してるのですか?」
「二億院様! 相手をすることはありません」
「そんなのどうでもいいじゃんか。オレッチたちの出番だ。行くぜ、二人の合体技!」
飾磨はその上で転び、立ち上がろうとしてもこけ続けて立ち上がれない。
「邪魔して欲しくないからね。君の足元から出る微弱の信号は三半規管に作用する。しばらくは立てないはずだよ。後遺症の心配ないけど、あんまり長時間いると酔ってゲロ吐くかもね」
「君もだ。手出しはしないで欲しい」
「どういうことだ?」
俺の疑問に答えたのは祝桜だった。
「私から説明しよう。今まで現れていた怪獣というのは幼生体なのだ。はじめはこの世界の環境に馴染めず暴れますが、しばらくすると成長にエネルギーを使うために大人しくなる。そして、それが過ぎると成体となることが判明した。今までは幼生体でも手こずってたが、この三人ならば成体でも相手にできると判断した。成体を倒した時に生まれるエネルギーはまさに莫大。強大な力を抽出できるのならば、それこそ我々の使命である」
「そんな、危険じゃないか。幼生体でもあの強さだったんだ」
崇蔓が鼻で笑う。
「失礼。幼生体を強いなんて思ってるのは君だけだ。ここにいる人間はもはや誰もそんな風には思っていない」
「なんせ、幼生体も弱るまで倒せなかったくらいだからね。しかたないよ」
崇蔓に同調するように可楽須が首を振って髪をなびかせて言う。
「だけど、なにもそんな危ない橋を渡らなくったって、充分じゃないか」
「力は無限に欲しいのです。充分なんてことはありません」
二億院は思いつめたよう長く黒いまつげを伏せて言う。
「でも万が一ということが!」
俺がそう言うと可楽須がメガネを触りながら口元だけで笑う。
「そろそろ黙ってもらえないか。無能な人間が喚き散らすことの方がボクたちにとっては迷惑だ。自分にできないから人にやるなと、君はそういうのか? チャンスが有れば挑戦するっていうのが若さの強みだろう」
「そう言ってやるな。彼の気持ちもわかる。今まで自分が喝采を浴びていたのにそれがあっさりと奪われたら嫉妬もする。もうこれ以上活躍して欲しくはないだろう。自分との差が浮き彫りになってしまうのだから。しかし、わかるからと言って俺たちだって聞いていられない」
崇蔓が諭すように言う。
黙って話を聞いていた
「そういうシナリオなんだ。君がなんと言おうとね」
俺の言葉は聞き届けられない。
そもそも今までの俺の発言は力があったからこそ認められていたのだ。
魔王はまっすぐ怪獣にその赤い瞳を据えて背筋を伸ばしたまま呟いた。
「力を持ったものは、それを使わずにはいられないものだ」
俺もヒーローになった頃は万能感に酔っていた。
そして能力により他人から認められるのは麻薬のようだった。
それがあるから、たとえ怪我をしたところで、苦しい思いをしたところで怪獣に挑んでいけた。
あの頃の俺を誰かが止めようとしたところで、俺は聞けただろうか。
俺は冷静にことの成り行きを見ている尖に言う。
「尖が言うんなら、成体になっても大丈夫なんだな。お前はこの先どうなるかわかってるんだろ」
「わかってますけど、大丈夫かどうかは答えられません。それは神と僕以外は知ってはならないことですからね」
そう言っているうちに怪獣が脈打ち、皮膚がひび割れ、中からそれまでとは違う新たな生き物が現れた。
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