第18話
「話は全部聞かせてもらった!」
そう言って
「あ。いるじゃんか! やっと見つけた」
「話を聞いてたんじゃないんですか?」
「ただそう言って登場したいだけだ。ちなみに、あいつはその場にいても話を聞いてない」
「なるほど。さすが愛と正義とかさぶたのヒーロー、流星のシカマンですね」
飾磨は尖の言葉にショックを受けたように大げさに二歩後ずさる。
「初めて聞いたのに、なんて馴染みのあるフレーズ。さてはお前は……オレッチのファンだな?」
ビシッと親指で自分を指して飾磨は胸を張る。
「あはは。確かに僕は飾磨くんのファンでした。いつも計り知れない行動で楽しませてくれる」
「やっぱりな。お前はなかなか見る目がある。視力も2.0はありそうだ。ちなみにオレッチは両目で3.14だ。だからどんなことでもお見通し……って、そこに倒れてるのはマオー!」
指で輪を作ってメガネのように辺りを見回した飾磨は魔王のベッドに気づいて声を上げる。
「寝てるんだ。あんまり騒がしくしないでくれ」
俺が静かにそう言うと飾磨はうなだれた。
「オレッチの御札が効きすぎたばっかりにこんな姿に」
「それは多分、関係ない」
「いいや! オレッチの念を甘く見てもらっちゃ困る。天気予報だって三分の一の確率で毎回当たるし、おしっこ出そうだなぁって思った時は絶対におしっこがでるんだ」
「それは誰でもわかる」
「バカ言うな。絶対100%だぞ? どうせ気のせいだろって油断するとだいたい漏らしちゃう」
「いくつのガキだ!」
「声が大きいですよ」
尖が笑いながら俺にそう言った。
飾磨とやりとりしていると、どうも声が大きくなってしまう。
気を使って保健室の外の廊下に出て話を続けた。
「どうせまたヒーローの資格が、とか悩んでるんだろ。ま、そこがシャシャシャケのいいところなんだけどな!」
俺は思わず尖の顔を見る。
尖も俺の顔を見て苦笑した。
「飾磨くんは、なんでサイドキックなんですか?」
尖の質問に飾磨はチッチッチと口の前で指を立てて首を振る。
「そんなこともわからないのか。しかたない、教えてやるじゃんか。それははるか昔、ビッグバンにより宇宙が生まれた時まで遡る」
「あの、もうちょっと端折って。最近からお願いします」
「よかった。これ全部話すと100億年くらいかかっちゃうからな、寿命が心配だったところだ。そんなわけでオレッチはシャシャシャケのサイドキックになったってわけさ」
「いや、端折り過ぎですよ。そんなわけの部分が重要じゃないですか」
尖が両手を前で振りながら慌てて言う。
未来を知り、いつも余裕を持ってる尖のこんな姿を見るのはなんだか微笑ましい。
「どうしよっかなぁ。これ言うの恥ずかしいし」
「おしっこ漏らした話してたくせに、それ以上恥ずかしいことなんてあんまりないですよ」
「あれはオレッチがお腹ペコペコでもうギリギリの所をさまよっていた時、偶然通りがかったシャシャシャケが食べ物を分けてくれたんだ」
「強引に奪い去って勝手に食べただけだろ。うちのおばあちゃんのお手製のおやつを」
尖は呆然としている。
「それだけ?」
「そうだぞ。あの時は命を救われた、一生ついていこうって思ったじゃんか」
「食べ物で釣られたってだけなんですか? それで危険なサイドキックに?」
「うん。だって美味しかったからな、あのきび団子」
「桃太郎ですか! 自分でヒーローになろうって思わなかったんですか?」
「だってシャシャシャケの方がむいてるじゃんか」
飾磨の答えに俺の鼓動は大きくなった。
「僕はどちらかと言うと飾磨さんの方がむいてると思ってます」
「さすがよくわかってるじゃんか。でもまだわかってないね。お前もいずれわかる時が来る。ほら、有名な歌があるじゃん。かさぶたを~痒くなるのを我慢して~剥がれるとピンクでスベスベ~♪ って」
「そんな歌、聞いたことないんですが、この世界では有名なんですか?」
「いや、聞いたことない」
尖の問いかけに俺は首をふる。
「有名じゃんか。オレッチが作った歌だよ。それでは聞いてください。飾磨
そう言って飾磨は歌い始めた。
俺はなんだか胸がいっぱいで、その歌はまるで耳に入らなかった。
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