第15話
またしても怪獣が現れた。
今までの戦いの間隔からするとかなり短い。
どうやら二億院は、新しく来た三人の戦力を期待してエネルギーの抽出を早めているらしい。
校内放送で三人の名前が呼び出された。
俺の名前はそこにはなく、それに気づいた者が囁くような笑い声を漏らす。
教室ではそのまま授業が続行され、俺も集中できないまま黒板を眺める。
だけど、そんな我慢は数十秒ともたなかった。
俺は黙って立ち上がる。
その瞬間、校舎の壁に怪獣が激突し、床が軋み壁にヒビが入った。
ガラスが飛び散り、コンクリートが崩れ始める。
女子生徒の悲鳴が上がり、男子生徒の唸り声が響く。
崩れた壁のところに、金に輝く羽を背中に生やして空を飛ぶ
「ごめんね。次は気をつけるから」
そう言って崇蔓が頭を下げると、女子生徒が黄色い声をあげた。
崇蔓の奥に見える怪獣は、今までのものよりも身体が大きく、皮膚の質感は逆にツルンとしていてなんだかレベルが一回り上がったような見た目だった。
崇蔓が飛び去ってしばらくして天井が崩れだした。
俺は一気に加速して下敷きになりそうな生徒を抱えて救い出す。
しかし、崩れ始めた天井の崩壊はさらなる崩壊を呼び、どんどん落ちてくる。
クラスメイト全員を加速で救うことはできないので、俺はロッカーを重ね、その上に飛び乗り天井を支えた。
「早く逃げろ」
教室に残っていたクラスメイトにそう告げる。
「でも……」
「大丈夫。俺は……」
ヒーローだから、と言おうとして思わず口ごもってしまう。
クラスメイトは、ざわついた声を上げながら教室から出て行こうとする。
崩れかけた天井は、重さもさることながらバランスをとるのが難しく、思わず片膝をつく。
その僅かな衝撃で天井は大きく崩れ、扉の近くで詰まっている生徒から悲鳴が上がる。
「くそっ、無理か」
怪獣相手ならともかく、ただの建造物に対して加速した所で意味はない。
なんとか全員が逃げ切るまで、と思って周りを見ると、生徒たちは悲鳴を上げて、廊下に出たところで押し合っている。
それを少し離れた場所で佇み、見ている魔王がいた。
「ブラジャスキッド見参~!」
教室につながる暖房用の通風口から、身を捩るようにしてホコリまみれの
「いいところに来た。飾磨、みんなを避難させてくれ」
「そう、オレッチはいつでもいいところで来る男。いますぐそこに行くぞ!」
「来なくていい。ここは……魔王と俺に任せて、みんなの避難を。お前にしか頼めない」
飾磨はジロッと魔王を見ると、大きく頷いた。
「任せろ。生徒の安全はこのオレッチが引き受けた。さぁ、みんな『お・か・し』だ。押さない、駆けない、飾磨に感謝!」
そう言いながら飾磨は生徒たちの頭の上を盛り上がったライブのように転がり導いていった。
ここは力のない飾磨より魔王の方が頼りになる。
きっと魔王は助けてくれる。
そう信じられるものが俺の中で生まれていた。
「ごめん、助けてくれないかな」
魔王は一瞬、目を伏せるとコクンと頷き、俺のいるロッカーの上まで登ってきた。
これでなんとかなる。
魔王の山を崩すほどのスーパーパワーがあれば、問題はない。
むしろ力が強すぎて校舎が全壊してしまう事態を心配するほどだ。
魔王は俺の横に並ぶと、一緒になって天井を持ち上げた。
可愛い唸り声を上げて一生懸命持ち上げてるようだけど、まったく軽くなった気がしない。
最初はふざけてやっているのかと思ったけど、目を力いっぱいつむり歯を食いしばって顔を赤くするさまは冗談とは思えなかった。
「どうしたんだ?」
魔王は赤い顔のままフルフルと首を振る。
それでも一向に力が入ってるようには思えない。
「ひょっとして、力がなくなったの?」
魔王はカクンと膝を折り、ヤギのような角を両手で押さえ込んだ。
その仕草が異世界でどういう感情を表すのかはわからなかったけど、なんだか泣いているような哀れみを誘うものがその背中には感じられた。
教室から生徒が全員退避したことを確認して、俺は加速すると魔王を抱きかかえて天井が崩れ落ちる前に逃げ出した。
天井の崩壊の衝撃を受けて、床もまた崩れ始める。
踏ん張りの効かない床を、最大限にクロックアップして瓦礫が重力で落ちきる前に飛び移る。
常人では到底体感できないほどの超加速で、なんとか廊下に転がり出る。
崩壊は教室と廊下を隔てる支柱で止まった。
「なんとか切り抜けたな」
腕に抱えた魔王を見て言った。
魔王は目を細めると小さくむせる。
その口から、赤い血が散った。
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