第10話
校内放送ではなく口づてで、一人で来るようにと言われた。
こんなことは初めてだ。
今のところ、危害を振るう恐れもない魔王の対応の仕方あたりだろう。
上手いこと魔王も怪獣退治に参戦してくれればいいのだけど、そう都合良くもいきそうにないので、どちらにしろ俺の力を頼りにするしかないわけだ。
いつもながら短期間で見事に修復された生徒会棟に入ると、出迎えたのは二億院と祝桜と、見たことのない三人の男たちだった。
三人とも俺と同世代に見える。
さっぱりとした若者風だけど、この学校では見たことのない生徒だ。
三者三様に格好や雰囲気は人目を引く。
生徒で見かけていたなら忘れないだろう。
そもそもうちの学園の制服を着ていない。
二億院白空は三人の男の前でうつむき、どこか悲しそうな表情だった。
「やはり祝桜さんの言うとおりだったのです。決して私たちは近づきすぎてはならない存在。いままでずっと
二億院は目に涙をためて片手の拳をもう片手で握りしめる。
悲劇のヒロインのように振る舞う二億院の前で、俺の鼓動が早鐘を打つ。
まるで別れ話のようなトーンで語り始めたが、そんなはずはない。
二億院と付き合ってなどいないし、あくまで生徒会長と学園のヒーローの立場だ。
そりゃ、俺だって彼女は欲しいと思ってる。
けどヒーローという言葉のイメージとは裏腹に、まったくモテない。
正直、もうちょっと女からのアプローチがあってもいいくらいだ。
そしてモテにモテて幸せを味わった挙句、危険と背中合わせの日々に女は不要だ、と格好良く立ち去るというシミュレーションも完璧なのに。
しかし俺の鼓動が激しく暴れるのは、恋のときめきなんかじゃない。
ヒーロー失格を申し渡されたんじゃないかという恐れからだ。
ヒーローとして必要とされなくなるくらいだったら、二億院に振られたほうが何倍もいい。
「え、それって、なんつーか、その、恋愛的な話か?」
俺は精一杯の笑顔で、感情が高ぶった二億院を刺激しないように答える。
「その辺にしなさい。しつこい男は見苦しい」
「なぁ、そういう話なんだよな? 二億院が俺のこと好きで……」
「痴れ者め! よくも二億院様に向かってそのような不躾なことが言えるな。笹咲十慈など誰も好きになるわけがない」
祝桜が激しく叱責するが、二億院は俯いて黙ったままだった。
「だって、そういうことだろ。そうじゃなかったら、どういう意味なんだよ」
「笹咲十慈はもう生徒会室に呼び出されることはないということだ。普通の生徒に戻ればいい」
祝桜の言葉に、体温が急降下した。
「そんな馬鹿な話。だって、どうすんだ。怪獣は!? 誰が戦うっていうんだよ」
俺が祝桜に詰め寄ると、肩にかかった手を祝桜は短鞭で叩いた。
「我々は魔王の脅威に対向するために、新たな勇者を三人召喚した。しかし、予想外の笹咲十慈の活躍により魔王の処置を急ぐ必要はなくなったわけだ。ならばということで、こちらの三人は今後、怪獣退治の任にあたってもらうことにした。神の化身、
「お守りって。どういうことだよ」
二億院の後ろに控えていた三人の新しいヒーローの中の一人、崇蔓が前に出る。
背が高く、胸板は厚く筋肉質な身体つきが服の上からでもわかる。
「貴君の健闘は讃えよう。いままで一人でよく闘いぬいた。あとは我々に任せてもらおう」
その身体に反して、金髪で少し目のたれた優しそうな面立ち、声もウィスパーノイズの交じる優しそうなものだった。
「だって、あの怪獣だぞ。わかってるのか?」
俺が言い返すと、もう一人の男、可楽須が出てきた。
一昔前のマンガに出てくるエスパーみたいな頭だ。
手櫛で髪の毛を斜め上に跳ね上げる。
一見ものすごい寝癖のようだが、どうやらわざとスタイリングしているらしい。
「あの怪獣ね。データを見て十分わかってるよ。君以上にね。これからは命がけの戦いだ。子供の遊びをしたいなら、他所でやってくれよな」
メタルフレームのメガネが光って目の表情は見えないが、口元は嫌味に笑っていた。
「ふざけんな!」
「そう、熱くなるな。別にふざけているつもりはない。侮辱するつもりはないのだけど、事実をそのまま言うと傷つけてしまうようだね。ええと、君の能力は……」
「クロックアップ」
祝桜が可楽須に注釈する。
「それそれ。早くなる『だけ』の割には頑張ってたじゃないか。しかし実力のない者がしゃしゃり出てきて怪我でもされたらこっちが困る。こういうことにはね、慣れてるんだボクは。早く怪獣に会いたいもんだ」
言い返そうとすると、三人の中で最も背が低く、キャスケットを深々とかぶった尖が言った。
「あなたはここにいるべきではないんですよ」
深々とかぶったキャスケットと前髪の間から見える釣り上がった目は、全てを見透かしているような輝きを持っている。
小さいアゴに小さい口、身体も決して強そうには見えない。
そこが逆に何かを秘めているような底知れなさを感じさせた。
周りが全員敵になったような気がして、感情が爆発し口から漏れた。
「怪獣の恐ろしさも知らないくせに!」
「やれやれ、今まではそうだったかもしれないけど、状況が違う。俺に言わせてみれば君こそ俺の恐ろしさを知らない」
崇蔓は甘く笑いながら言った。
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