第7話
怪獣は生徒会室中央にある召喚円から這い出るように、上半身を見せていた。
上半身だけと言っても見上げるほどはある。
吹き抜けのこの空間は、学校のプールがまるまる入るくらい巨大なはずだが、怪獣がいるとそれだけで圧迫感を感じる。
怪獣の大きさは個体にもよるが、10mくらいで校舎の三階に届く。
その巨大さから繰り出される力も凄まじく、普通の人間なら踏み潰されただけで間違いなく即死する。
「悪いが、今日はシャシャシャケの出番はない。このオレッチの新開発必殺技で一撃じゃんか」
にも関わらず、普通の人間である
自称ヒーローとしての使命感からか、はたまた
「必殺ロデオマウンテンダイマナイツビーム! このロデオって格好いい言葉思いついたのすごいだろ?」
飾磨は腕を十文字に構えて腰を捻って怪獣に対峙する。
その腕からビームらしきものがでている気配は微塵もない。
「もういい、危ないから下がってろ」
「いま、この腕のあたりから目には見えないリラックス効果のある波動がじわじわと出ていて怪獣はすぐに死ぬじゃんか。ただし効果には個人差があります」
「個人差があります、じゃない」
俺が声を上げた瞬間、召喚円から這い出た怪獣の尻尾で飾磨は軽く薙ぎ払われた。
「ホゲンッ」
「飾磨!」
俺は一気にクロックアップして跳ね飛ばされる飾磨を追い越して壁に激突する前に身体を抑える。
「くそっ、油断した。せっかくこの星のみんなから少しずつわけてもらったパワーが全部散っちゃったじゃんか。でもやれることはやったから敵は瀕死じゃんか。トドメだけ頼む!」
「俺がおいしいとこだけ攫うみたいに言いやがって。まぁ、飾磨が無駄な活躍をしている間にいつものように二億院たちは逃げたからいいか。魔王様も安全な場所に退避してくれ」
魔王は椅子に座ったまま、大きく円を描くように足を組み替える。
「なぜだ」
「なぜって、そりゃ危ないからだよ」
「余の方が強いのにか?」
魔王はこちらを試すように勿体つけて指を揺らした。
「そりゃ確かにそうだけど。だからこそ、俺は弱いから余裕が無いんだよ。闘いながら周りに気をつけるなんて器用なことはできない。だから逃げて欲しいんだ」
「構わん、戦え。余は見ている」
「そうかよ、わかった。知らねぇからな!」
俺はクロックアップして怪獣の背後に回ると、そこから背中を登り頭に辿り着く。
巨大な怪獣は、下半身より頭の方が弱点であることが多いからだ。
怪獣の頭の頂点に思いっきり肘鉄を食らわせる。
超高速で打ち下ろされる肘鉄は、かなりの破壊力を持っていて岩くらいなら軽く砕く。
はずなのだけど、怪獣の頭は中身がみっしり詰まった金属の塊のようで手応えがなかった。
頭の攻撃に気づいた怪獣がこちらに手をのばそうとするのをクロックアップですり抜け渾身のパンチを目に食らわせる。
眼球という柔らかいはずの器官ですら、空気がパンパンに詰まったトラックのタイヤを殴っているように弾き返される。
次はどうするべきかと考える前に、怪獣の巨大な手に身体をなぎ払われた。
連続のクロックアップで集中力が欠けて気付かなかった。
変身ヒーローの能力のように何分間しかできないと決まっているわけではないけど、あらゆる感覚を鋭敏にして処理していくクロックアップは体力や精神力の消耗が尋常ではなく、長時間の使用はまず無理だ。あまり多用してもその処理スピードはどんどん落ちてくる。
大事なところだけ瞬間的に使い、長期戦はしないという使い方が適してはいるが、実際に怪獣を前にそんな戦略を立てている余裕はない。
跳ね飛ばされたまま、床に激突する瞬間にクロックアップで受け身を取る。
着地した場所は、魔王が座っている豪奢な椅子の2mほど手前。
さすがの魔王は、椅子から立ち上がる気配もなく、戦いを見ていた。
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