第13話
戦いではビンビントリッキィが二人のフローラルキティンを組み敷いていた。
「全然連携ができてないわね」
母はちょっと楽しそうに困った素振りをする。
先を争うように相手を攻撃する二人は、時には苛立たしげにお互いを突き飛ばしたりもしていた。
「邪魔をしないでください」
「そっちこそ。アタシがフローラルキティンなんだから!」
「では勝負しましょう。この敵を倒したほうが、正当なフローラルキティンの後継者でいかがです?」
「いつなんどき、誰の挑戦でも受けるわよ!」
マミヤとキネコは体勢と立て直すとビンビントリッキィと三すくみのように睨み合う。
母から先ほどの余裕のある笑顔は消え、忙しく手を組んだりしている。
「まずいわぁ。負けちゃうかも」
「当たり前だよ。だって技とか何も知らないんだよ?」
「そんなの、なんとかなるのよ。でもダメ、気持ちが向いてない。いい? ヒーローはね、気持ちで戦うの。技術や体力で戦うんじゃないの。あんな、あっちこっちフラフラしてる気持ちじゃ力でないわよ」
「そんなこと言ったって」
「なんか言ってあげなさいよ。仲良くしないと絶交だぞ、とか」
「ボクなんかが言っても意味ないよ」
「言ってみなきゃわからないじゃない。どんな立派なヒーローも、案外大切な誰かのために戦ってるものなのよ」
困惑しているうちに、ビンビントリッキィが大きな球を右手に構えた。
両手でこねるようにその球を小さくしていく。
圧縮した空気の爆弾のようなものだ。
あれを間近で食らったら、いくらフローラルキティンに変身していたとしてもかなりダメージは大きいだろう。
そのことは戦っている二人も一瞬で把握したようだ。
爆弾が手を離れる前にと、赤いフローラルキティンが中途半端な体勢のまま蹴りを放つ。
しかしその蹴りはビンビントリッキィを素通りし、白いフローラルキティンの足に命中した。
バランスを崩した白いフローラルキティんはビンビントリッキィに背中からぶつかった。
爆弾を両手でジャグリングするように追いかけるビンビントリッキィ。
そのままビンビントリッキィは倒れていた赤いフローラルキティンに躓いた。
爆弾はビンビントリッキィの手を離れ宙を舞った。
緩やかなカーブを描いて飛ぶ爆弾。
それはまさしくバクヒロの方に向かってきた。
逃げればなんとかなるかもしれないのに、爆弾が迫ってくることから目が離せず、足が動けなかった。
ここは戦場なのに、観戦者の気分のまま危機感すら感じていなかった。
死ぬ前には走馬灯のように人生が見えると聞いていたが全然そんなものは見えない。
代わりにバクヒロの視界に現れたのは、人の影だった。
影の向こうで圧縮された空気が破裂して、バクヒロの身体も、人影と一緒にふっとばされた。
頭を腕でガッチリと抑えられ身体ごと胸に圧迫され、もがきながら顔を上げる。
眼の前に写ったのは母だった。
髪の中から顔に血が垂れている。
お互い抱きしめあう形になっていた手を見ると、べったりと血に染まっていてた。
「なんで……。なにやってんだよ。もう、フローラルキティンじゃないのに」
「だって、フローラルキティンじゃなくても、ママだもん」
痛みなのか悲しみなのか、母の瞳からこぼれた涙は、血と合流して傷口を流れていく。
母の肩越しには、爆煙の向こうで立ち尽くす三人。
赤いフローラルキティン。
白いフローラルキティン。
そしてビンビントリッキィすらも、呆然とこちらを見ていた。
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