第14話
母は傷はひどいものの内臓や骨には問題がなく、治療の後にそのまま入院ということになった。
バクヒロが自室に戻り、病院で切っていたスマホに電源を入れるとメッセージが入っていた。
マミヤとキネコ、両方から一通ずつ。
どちらも勝利を報告するそっけない業務連絡で絵文字の一つも使われていなかった。
返事を返す気分にはなれず、ぼーっといつもの習慣でネットをすると、事件のことが取り上げられていた。
一般人が巻き込まれる事故は稀にある。
バクヒロがよくチェックしてるスーパーヒーロー系のサイトでも時系列に沿ってまとめられている。
ただ今回はなぜか一般のニュースサイトにも飛び火していて、普段スーパーヒーローになんてまるで興味もないような人たちが面白半分に意見を交わしていた。
二人組の新人スーパーヒロインという要素もキャッチーで目を引いたのかもしれないが、事故が事故だけにいい気分じゃない。
ドアがノックされる。
父だった。
いつもの締まらない表情、しかしその奥に憔悴が潜んでいるのが見える。
「パパ、しばらくママの側についていてあげようと思う」
「うん、わかった」
「で、バクの生活なんだけど……」
「大丈夫だよ。ごはんだってその辺で食べるし。もういいから行って!」
いつまでも自分の世話を焼きたがる父にバクヒロは煩わしさを感じていた。
母があんな目にあったのはバクヒロのせいだ。
その罪悪感も、それを責めない父も、消化しきれない重しとしてバクヒロの精神を蝕む。
父に当たったところで、何一つ解決しないのはわかっている。
わかっていても、自分のイラつきを自制できないでいた。
「あぁ、うん。でもな、一人じゃ何かとアレだから……」
父がそう言ってドアを広く開くと、そこにはマミヤがいた。
「おじゃましてます」
「あ、え? いたんだ……」
マミヤに聞かれていたと思うと、父に向けた子供っぽい振る舞いが異常に恥ずかしくなる。
バクヒロに動揺と怒りが湧き上がってきた。
なんで一言も言わないのか。
一つ屋根の下に男と女が一緒だなんて、なにか問題が起きないとも限らない。
自分のことではあるが、保護者として無責任なのではないか。
正義感が怒りを後押しする。
確かに結婚を誓った仲なのだから、おかしいと言い切れるわけではない。
しかし普通の親なら止める立場だ。
なんで自分には普通の親がいないんだ。
頭がどんどん熱を持ち、口を開くと怒鳴り散らしてしまいそうだった。
マミヤがいる手前、黙っていたが、いなければどうなったか。
「それとこれ。じゃ、後はまかせたぞ」
父は黙っているバクヒロを尻目に、ダンボール箱とマミヤを残して出ていった。
「大丈夫?」
マミヤはこっちの顔色をうかがうように声をかけてきた。
これから起こる一つ屋根の下シチュエーションに対する心配ではなく、母のことを気にしての発言だろう。
大丈夫ではない、色々と。
バクヒロの心は千千に乱れていた。
そしてそんな時にも関わらず、マミヤにみっともないところを見せたくないと見栄を張ろうとしてる意識に気づいて切なさすら出てきた。
「うん、ボクは。そっちは?」
「うん……アタシは」
マミヤが目を伏せると、長い睫毛が影を作る。
あんなことが起こったのだから、快活に「大丈夫!」なんて答えられるわけ無い。
「勝ったんだってね」
「一応」
会話が短い言葉のやりとりで終わってしまうことでより空気が重くなる。
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