第12話


 いきなり戦えなんて言われたってできるわけない。


 バクヒロの中にある常識はそうだった。


 それなのに白いフローラルキティンのキネコは迷うことなく飛び出した。

 さらに追いかけるように赤いフローラルキティンのマミヤも飛び出す。


「こんな素人のガキ相手に戦ってられるかぁ!」


 ビンビントリッキィはヒステリックに甲高い声で叫ぶ。


「ギャフンと言わせてあげますわ」


 キネコが強気な発言とともにビンビントリッキィに殴りかかる。

 反撃をするビンビントリッキィを華麗に躱して翻弄する。

 マスクの下の口元は楽しそうに笑っていた。


 話をしたキネコのイメージとはかなり違う。

 変身をして人格まで変わったようだった。


「新人だからって舐めてたら怪我するわよ」


 マミヤも挑発的な言い方をして、ビンビントリッキィの脇をすり抜け背後から組み付く。


 マミヤの性格はいつもどおり好戦的だった。


 しかし突然スーパーヒロインに変身したのに、いつもどおりでいる事自体が驚きだ。


 普通はもっとこう、戸惑いのようなものがあると思っていたのに。

 バクヒロは、彼女たちのように振る舞えるかと自問自答したが、はかばかしい答えは出せそうになかった。


 まだ戦闘態勢が整ってないように見えたビンビントリッキィは、自らのスーツを風船のように膨らませて二人を弾き飛ばした。


「ねぇ、どっちに勝って欲しい?」


 母はなにか企むような怪しい笑みをうかべてそう聞いてきた。


「どっちとかないでしょ。両方共フローラルキティンじゃないか。二人で協力すればいいだろ」

「へぇ~、そういう考えも、ありね」


 二人のフローラルキティンが同時に攻撃をすると、ビンビントリッキィは怒りが沸点に達したように破裂音とともに跳び上がって二人を吹き飛ばす。


 赤いマミヤは家の塀に当たりそのまま塀を崩し、白いキネコは止めてあった自動車にぶつかりそのドアをひん曲げた。


 その爆音で目を回していたニントモが覚醒した。


「はっ、いったい何事ぞぃ?」

「いま、新しいフローラルキティンが戦ってるところ」

「ゲゲェ! こ、これは、まさに奇跡と呼ぶべき瞬間ぞぃ~」


 ニントモが二人の戦いを見て手を振り上げて絶叫した。


「大げさだよ、それに二人がかりでも分が悪いみたいだ」

「そんなことじゃない。一人のBBAが若い二人になったんだぞぃ。つまり34歳が17歳二人に! スーパーヒロインの細胞分裂だかんな。やったぞぃ、ついに科学はBBAの殲滅に成功したぞぃ」


 ニントモの顔にゆら~っと影がかかる。


「はじめまして。バクちゃんのママです。いつもうちの子とあそんでくれてありがとう」


 ニントモの目の前に仁王立ちして、表面上は笑顔で挨拶する母。

 その闘気は極限まで膨れ上がり、小動物なら気絶しそうなほどだった。


「ということは、ニンの義理のママだかんな。遠慮無く実の息子と思っていいぞぃ」

「あらぁ。可愛いこと言っちゃって。じゃ、遠慮なく」


 母はニントモの胸を手を当て突き飛ばした。


 その一瞬あとにニントモが立っていた場所に戦いで弾き飛ばされた空き缶が飛んできた。


「気をつけないと危ないわよ、ニンちゃん」


 悪魔も怯えるような微笑みで母はそう言った。


 ニントモは5mほど転がり尻餅をついて放心していた。

 明らかに空き缶が当たるよりも突き飛ばされたダメージのほうが大きく見える。

 心理的にも。


「ここにいると命が危ないから離れて見ることにするぞぃ」


 本能で身の危険を感じたのか、起き上がるなりニントモは逃げるように母の視界から遠ざかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る