第11話

 ついた場所は埃っぽい匂い、地響き、爆発音、戦闘区域のそれだった。


 バクヒロはようやくフローラルキティンの背中から解き放たれ自分の足で地面の感触を確かめた。


 背中にしがみついていたニントモは白目をむいて口の端からよだれを垂らしている。

 そういえば高所恐怖症だったはず。

 どうりで首をグイグイ締め付けてきたわけだ。


 フローラルキティンが降り立つと、ゴムで跳躍しながらビンビントリッキィが待ってましたとばかりに現れた。


「フローラルキティン、今日こそチミに引導を渡してやる」

「その引導、しかと受け取りました!」

「え……」

「今をもって、私は普通の女の子に戻ります」


 フローラルキティンが目がくらむほど眩く輝くと、そこにはフローラルキティンではなく母がいた。


 随分と派手な格好で34歳には見えない。

 露出するのが嫌だとか言ってたけど、この肌寒い時期に肩や太ももが出ていて普段着でもかなりの露出だ。


 決定的な衝撃場面ではあるが、無関係の市民が映り込んでる上、変身前の姿まで見せてしまったのでは配信には流れないだろう。


「バカを言うんじゃない。言葉の綾だ! だいたい女の子って図々しすぎやしないかぃ!」


 さすがのビンビントリッキィも驚きの声を上げ、身体を弾ませる。


 母は、虹彩を放つバトンをクルッと回転させて胸の前で構える。


「フンッ!」


 そして猛烈な鼻息と共にバトンを割り箸のように引き裂いた。


 二本に割れたバトンをマミヤとキネコに渡す。


「これ、フローラルキティン・アンブレイカブル・ステッキ。フローラルキティンに変身できるやつなの。あとは任せたから、さぁ、頑張って!」


 そう言って二人の腕を勢いよく叩いた。

 そんないきなり超豪速球のパスをもらったところで受け止められるわけが無い。



 説明も足りないし、心の準備だってできていないだろう。


 ここにいるのは普通の女の子二人だ。

 もっと訓練とか、研修期間とかがあってしかるべきじゃないか。


 母の強引さは知っていたけど、身内のバクヒロならともかく、他の人に向かうとなると異常に恥ずかしくなる。


「変身のポーズはこんな……」


 そう言って手本を見せようとした母にキネコが制する。


「大丈夫です。練習しましたから」


 そう言って腕を大きく回し、足を蹴りあげ光りに包まれた。

 長い黒髪が布のように広がりシルエットを浮かび上がらせる。


 何の躊躇もなく変身するキネコにバクヒロは驚いた。

 母の元で修業したという話だから、予め教わっていたのかも知れない。

 母の強引さにもある程度慣れていたのだろう。


 しかしマミヤはそうはいかない。


「さすがね。ええと、あなたマミヤちゃんね。振りは適当でいいんだけど、大事なのは精神を……」

「結構です。ダンスなら自信がありますから」


 マミヤはそう言うと腕を回し、足を高く蹴り上げ、キネコよりも幾分か鋭く、大きく舞った。

 言うだけのことはあって長い手足がダイナミックに踊る。


「やるわねぇ。すごい子見つけてきたじゃない。コノコノ!」


 母がバクヒロの腕を肘でつく。


 たしかにそこまでやるとは思わなかった。


 しかも突然戦場に放り込まれて、目の前に敵がいる状況でだ。


 バクヒロには考えられない精神力だった。


 二人を包むまばゆい光がおさまると、そこにはフローラルキティンが二人いた。


 正確にはフローラルキティンに似たスーパーヒロインだ。


 スポーティなホットパンツのマミヤが変身した赤いフローラルキティン。


 髪の長いミニスカートのキネコが変身した白いフローラルキティン。


 母で慣れていたつもりだったけど、知ってる女の子だと思うとかなり露出の激しいとんでもない格好だ。


「さぁ、張り切ってまいりましょう! 正義はあなたたちの肩にかかってるのよ」

「ま、待ちやがれよ。ちょっと展開が雑すぎるじゃねぇか。なんで勝手に世代交代してんだ」


 ビンビントリッキィが全身で訴えかけるようにわめいた。


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