第10話
騒乱の中に舞い降りたニントモは、立ち上がりゆっくりと周りを見回す。
そしてバクヒロに向かってこう言った。
「弟者! いくらおっぱいを揉む修業と言ったって、こんなにたくさん相手にしたら手がいかれちまうぞぃ」
「な、なに言ってんだ!」
助けどころか追い打ちをかけてきた救世主の言葉に、バクヒロの周囲にいた女性は半歩後退する。
「おっぱいを揉む話じゃないのか? あれだけ熱く語ったのに」
「違います。全然語ってません。興味ありません。一度も揉んだことありません」
しどろもどろの弁明をするバクヒロをしらけた目で見る女の子たち。
「そんなことより、ネットオークションですごい出物を見つけたぞぃ」
ニントモはバクヒロの腕を引っ張って、何事もなかったようにこの輪から脱出しようとする。
あまりにも普通っぽい段取りにマミヤが遅れて引き止める。
「待ちなさいよ、あんたなんなの?」
「ニンはバクヒロの
ニントモは予てから練習していたオリジナルの名乗りポーズを決めた。
「イチョウの舞い散る初冬、潰れた銀杏の匂いの中、義兄弟の契りを結んだかんな。たとえ生まれたときは違えども、共に死せんことを。これが世に言う
「あぁ、うん。そんなこともあった。友達なんだ、ニントモ」
バクヒロがフォローしてニントモを紹介する。
マミヤの見下ろす視線は、珍しい生き物を観察するかのようだった。
「見たことあるわ。隣のクラスの、騒がしい子」
「なんだとぅ。ニンはお前なんか知らんぞぃ」
学校でもかなり有名なマミヤを知らないと言い切るとは、なんという度胸。
しかし、その発言はマミヤの取り巻きの女の子たちの反感をモロに買った。
「相変わらずね、ニンくん。でも女性には親切にしなさいって教えたでしょ」
それまで状況を伺っていたキネコが口を開いた。
「ニンっ!?」
一声上げてニントモはバクヒロの後ろにさっと身を隠した。
「知り合いだったの?」
「恐ろしいアマゾネスだ。ニンの近所では有名だったぞぃ。三度のメシより戦いが好きで、すぐ怒るから気をつけろ。ちっちゃい頃何度もやられてるかんな」
そう言われてもニントモのことを知っていると、どうもキネコの方に理があるように思える。
「ニンくん、大事なお話の最中なので邪魔しないでね」
小さい子に諭すようにキネコが腰をかがめると、ニントモがバクヒロの後ろで威嚇の唸りを上げる。
「キネコさん、ボクたちと同じ学校だったんですね」
「学年は一つ上です。姉さん女房は嫌ですか?」
バクヒロの言葉にキネコは食い気味に答える。
その視線はバクヒロよりもマミヤの方を意識していた。
「アタシが、婚約者なんですけど!」
「どういうことだ。結婚するのか? ということは、ニンの義理の妹じゃないか、嫌だぞ!」
マミヤもむき出しの敵意で返す。
ニントモが加入したせいで余計ややこしいことになった。
野次馬の輪から低いどよめく声が漏れる。
その時バクヒロたちの頭上に華やかな衣装が降ってきた。
「魅惑の花天女、フローラルキティン。ここに繚乱!」
個人的に超お馴染みのスーパーヒロイン、フローラルキティン。
学校にまで来ることはないと思ったけど、今回ばかりは感謝の思いしか出てこない。
フローラルキティンは振り返ると、マミヤとキネコを一瞥する。
マミヤもキネコも、日常に溶け込まないスーパーヒロインの派手な姿を見て恐縮するように身を縮こませた。
ニントモだけは平気そうにふんぞり返ってる。
「ふぅん。その子? いいじゃない」
マミヤが袖口を勢いよく引る。
「この人?」
「あぁ、うん」
バクヒロはバランスを崩しながら小さく答える。
「ちょっとあんたたち一緒に来なさい」
そういうとフローラルキティンは両脇にマミヤとキネコを抱えた。
「そこの少年も!」
明らかにバクヒロに向かってすごんできたので、渋々腰に手を回す。
「ちゃんとつかまって! 死ぬわよ」
さらにすごまれて、バクヒロはおぶいさるようにフローラルキティンの首に手を回した。
母に背負わるるなんて何年ぶりだろう。
「ニンも!」
ニントモはバクヒロの首に巻き付くようにおぶさってきた。
そのままフローラルキティンは跳躍した。
五人分の重量とは思えないほど軽やかに舞うと、建物の壁面や屋上を蹴って道無き道を一直線に進んだ。
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