第38話
ビンビントリッキィは戦闘エリアから避難した観客たちを見て言った。
「なかなか骨のあるやつもいるもんだな。特に俺を褒めていたところが素晴らしい。見る目がある。おまえたち二人はあんまり褒められてなかったな。ヒャッヒャッヒャ」
フローラルキティン・ブランが長い髪を払って言った。
「あれで十分ですわ。彼の言葉には愛が込められている。心に響く、しみとおる、溢れ出る素晴らしい愛の詩でしたわ」
「まぁね。彼はシャイだから。でも気持ちは伝わったもの。あんたを褒めてたのはどうかと思ったけど、そういう人なのよ」
ルージュも続いてそう言うとビンビントリッキィは苦虫を噛み潰して飲み下してまた反芻したような顔をした。
「なんだぁ? ガキが色気づきやがって。どれ、ここで一つ俺様がチミたちの友情を確かめてあげようじゃないか」
ビンビントリッキィはルージュとブランに伸縮するゴムのような素材をくっつける。
「なによこんなの、邪魔でしょうがないわ」
そう言ってルージュがゴムを引っ張ると、ちぎれる瞬間にとんでもない破裂をした。
周囲一体の空気が震えるほどの振動が起こり、地面にはその破裂の後が球状にえぐられている。
「そいつは一定の張力がかかれば破裂する。1mも離れればボカーン」
二人一緒にふっとばされたルージュとブラン。
すぐに立ち上がったのはルージュの方で、ブランは片膝をついてこらえている。
「ビンビントリッキィ! あんた、プロレスのことなんにもわかってないのね。チェーンデスマッチは話題性はあるけど、いざやってみると技が単調になるから地味な試合になるっていうのは常識でしょ」
「ほう、プロレスに詳しいんだな。でもそいつをつけた戦いは派手だぜ?」
「同じ技は二度と喰らわないわ」
「残念、足元に注意だ」
ルージュとブランが足元を確認すると、二人の足にはあのゴムがついていた。
「離れなければいいんですよね。まかせて! 私に! まかせて!」
ブランが立ち上がると、ルージュの肩を抱き走りだす。
ビンビントリッキィが破裂するボールを無造作に投げつけるが、二人は足並みをそろえ避けてる。
そこにさきほどの中に小さなボールの詰まったバスケットボール大の玉がバウンドしてきた。
ゆっくりとバウンドするボールを避けるために二人は左右に分かれる。
途端に大爆発が起こった。
度重なる爆発に二人のコスチュームもちぎれ、どんどん露出が激しくなっていく。
「ほれ、もう一丁」
ルージュの腰に付けられたゴムの片方を、ブランは身体を仰け反って避けた。
「そう何度も思い通りにはさせません。絶対にさせません!」
「あれれ、もうコンビ解消か?」
ルージュが腰についたゴムを剥がそうとする。
しかしゴムは簡単には剥がれず、コスチュームの方が伸びて色々と見えそうになった。
「この最新型ゴム兵器、名付けて『バインド・ボンド・バンド』は先端に生体反応が感知された時にスイッチが入る。そうなるともう片方に異なる生体反応を認識させないとダメなんだ。友情が大好きなゴムだからな。もし誰とも出会えず寂しい思いをさせちゃうと……」
ルージュの腰についたゴムが破裂する。
隣にいたブランも吹っ飛び、ついでにビンビントリッキィもたたらを踏む。
「つまり友情なんて無視して片方を犠牲にすれば、たいして怖くない兵器なんだな。ほらほら、賢い選択をするときだぞぉ?」
ビンビントリッキィはゴムを数本、倒れているブランに向けて投げつけた。
ブランは転がりながらバインド・ボンド・バンドを避けたが、払いのけた手にゴムの片方がついていた。
ブランとルージュの視線が交錯する。
ブランは、振り返ると脱兎のごとく逃げ出した。
「こらー、待ちなさいよ!」
「来ないでください! 近寄ら! ないで!」
「アタシだって行きたくないわよ。でも放っておけないでしょ」
「これは私が何とかします! 必ず! 私一人で!」
「バカー! 何とか出来るわけ無いでしょ」
足をもつれさせたブランにルージュが追いつき一緒になって倒れる。
そして二人の身体にバインド・ボンド・バンドがくっついた。
「何で来るんですか!」
「アンタこそなんで逃げるの。一緒に傷つく覚悟をした仲間じゃないの!」
「負けてもいいんですか!」
「惨めに勝つよりも、誇らしく負けるほうがずっといいわ」
そう言って二人は肩を組んだ。
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