第27話

 マミヤとキネコがバクヒロの家に来る作戦会議の日。

 自分の心づもりは決したものの、バクヒロは具体的にどう行動すればいいのか考えあぐねていた。


「マミヤ、ルージュは近接格闘をメインで戦うことにしよう。武器は足に装着する、その名も『ドリル・トゥシューズ』」


 バクヒロは細かい仕様を書き足したスケッチをマミヤに見せる。


 とりあえず現状としては二人のサポートが優先である。

 そのために考案した武器を提案する。


「う~ん、いいんだけど、どうも発想が男の子なのよね。ドリフじゃなくてフリルの方が可愛いんじゃない?」

「フリルか。それは思いつかなかった。ただ聞いて欲しい、ドリルはすべてを貫く正義の意志の象徴なんだ。秘密兵器界の女王だよ。これを足につけて回転するなんて、思いついてもできやしない。超人的なバランス感覚と身体能力、マミヤが培ってきた経験がすべて必要とされる。とても大変なことだけど、マミヤなら使いこなせると思うんだ。ボクは無理なことを言ってるかな?」


 マミヤは口の端をヒクヒクさせて言った。


「上等じゃない。いつなんどき、誰の挑戦でも受けるわよ。でもせめてフリルは着けて。『ドリル・フリル・トゥシューズ』にして!」


 バクヒロは頷いてスケッチにフリルを描き足す。


 次のページをめくり、挟み込んだメモを避けてキネコに見せた。


「キネコさん、ブランの武器は遠距離の『ジェット・ガジェット・ラケット』テニスのラケットのようにボールを打ち込みます」


 キネコはそのスケッチを見た瞬間、不安そうに顔を歪めた。


「あの、どうして……」

「実はさる情報筋から、キネコさんは小さい頃テニスの壁打ちを遅くまで練習していたと聞きましてね」


 さる筋もなにも、なぜかバクヒロの家のドアに吸盤式の矢文が突き刺さっていたのだ。


 内容は、スーパーヒロインにおけるポーズや露出のアドバイスや指摘。


 他にもキネコの近所に住むいたずらっこしか知りえないようなエピソードが満載されていた。

 誰がこんな矢文を送ったのかは謎ではあるが、赤毛の可能性が高い。


 キネコはそれを聞いてもじもじしながら答える。


「確かに、壁打ちはしてましたけど……」

「得意なんですよね、テニス。部活ではやってなかったんですか?」


 そう聞くと、キネコは顔を上げて瞳をうるませた。


「したことないんです」

「え?」

「壁打ち以外、やったことないんです。テニスはルールもわかりません」

「でも、なんで……」

「相手が……いなかったから」


 以前キネコは、胸を張って友達なんて必要ないと宣言した。

 しかし今回は恥ずかしそうに、そして少し悔しそうにつぶやいた。


 キネコはマミヤをちらりと伺う。


 フローラルキティンに変身した時は、多幸感の絶頂という感じなのに、普段のキネコはやはりバクヒロと似た性質を持ってるようだ。


 今の告白は誰よりもマミヤの前でだけは言いたくない言葉だったはずだ。


 うっかり追求して彼女を傷つけてしまったことを、バクヒロは悔やんだ。


「むしろそれは怪我の功名かもしれない。この武器を使う行動はテニスの動きだけど、テニスじゃない。むしろ相手にボールをぶつける行為はテニスが染み付いていたらできないはずだ。ボクはそこを懸念していたのだけど、肩の荷が下りたよ」

「わかりました。それで、いいです……」


 バクヒロが寝る間を惜しんで考え抜いたアイデアは、二人に喜んで受け入れられたとは言い難い。


 だけどそれは別に構わなかった。


 常に勝ち続けることを諦めたから。

 思った通りの結果が出なくてもいい。

 それを受け入れて、次につなげればいい。


 考え方を変えたバクヒロにとって、改善点が出ることのほうが自分の役割ができたようで嬉しく感じられた。

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