第23話
頭の奥にズキッと痛みが走り、バクヒロは目が覚めた。
顔のあたりになんだかフワフワした感触がある。
女性の声が耳に入り、自分がベッドの上に寝ていることがわかった。
「他にも恋愛をしたいという男性はいくらでもいるんじゃないですか」
「謙遜してもしょうがないからいうけど、居るわよ。言い寄ってくる男は」
キネコとマミヤだろうことは目を開けずともわかった。
声というよりも話し方、マミヤはハキハキと勢いよく断言する。
一方キネコは、どこか自信がなさそうに語尾が小さくなる。
フローラルキティン・ブランの時の話し方とは正反対だ。
「それは結構ですこと。だったら何も……」
「恋愛って何? 結婚って、なんのためにするの? 女の幸せ? 幸せって誰かにしてもらわなきゃならないものなの? 子供だってそう。そりゃ、子供を作る意義や幸せだってわかるわよ。でもそれって結婚しなきゃいけないものなの? 経済的に楽になりたいとか、社会的に楽になりたいとか、楽になるためにするものなの? アタシずっとそれ考えてきたの。世間の常識なんかじゃなくて、アタシが結婚する意味を知りたいのよ」
「でもそんなのは、いつか出会った時にわかるものじゃないんですか」
「そう。だから出会ったの。衝撃的だった。結婚した上に、スーパーヒロインになれっていうのよ。アタシはね、ずっとこういう人を待ってたの」
「そんなの、私だって……」
それきりしばらく沈黙が流れた。
どれほどだろう、まるで誰もいなくなったかのように静寂が訪れる。
ゆっくりと目を開けると自宅のベッドの上だった。
ベッドに脇からマミヤとキネコがバクヒロの顔をのぞき込んでいた。
驚きで声が出そうになるのを飲み込む。
二人とも黙って立ち上がり、そのまま部屋から出ていってしまった。
なんだか妙に刺々しい雰囲気。
怒っているようだった。
バクヒロは身体を起こして頭を振った。
痛みはない。
ベッドから出て身体を動かしても、怪我をしている気配はなかった。
マミヤとキネコがいるであろうリビングに顔を出した。
「あの、ごめん」
バクヒロの言葉に二人は振り返り不機嫌そうな顔を向けた。
「なにが?」
突き放すようにマミヤが睨む。
少したれた目に反して眉が鋭角的に上がる。
「いや、だから。でしゃばって、迷惑かけちゃって」
「起きてたの?」
「え?」
「だから、いつから起きてたのよ!」
マミヤは感情をぶつけるように声を上げた。
確かにちょっと前に起きていて二人のやりとりを聞いてはいたが、それを正直に話してしまうと色々面倒なことになりそうだった。
「今起きたばかりで何も……」
マミヤはその言葉を聞くと、ハァ~と長いため息を吐いた。
脱力して俯いた彼女の髪の間から白いうなじが顔をのぞかせる。
「あのあと、どうなったの?」
二人とも答えない。
お互いに牽制するように視線を交わしている。
「あれで終わりました」
キネコがこちらに視線をあわせずにポツリと答えた。
「バクヒロが倒れて、罵倒されて、それでも何にもできなくて、アタシたちの完敗。見たきゃ動画で見ればいいでしょ。どうせ無様な姿が映ってるわよ」
マミヤは苛立たしそうに唇を尖らせてテーブルを叩いた。
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