第16話
ニントモは興奮して全然話を聞かなかった。
しかたがないので、家に上げてマミヤとキネコの前で説明をすることになった。
母がフローラルキティンで、彼女たちが後継者として戦ったこと。
母の怪我がひどくてフローラルキティンとして戦うことは難しくなったことを伝えた。
「なんで隠してたんだ。義兄弟であるこのニンに!」
ニントモはリビングのテーブルをバンと叩いて大声を出す。
「基本的にスーパーヒーローの正体は秘密なんだよ! たとえ家族といえども」
「でもでも弟者は知ってたじゃないか!」
「ボクだって教えてもらったわけじゃない。自分で探り当てたんだ」
「だったらその探り当てを教えるべきだろ」
「間違いかも知れないじゃないか!」
「そんなことを言われてもわからない! 間違ってても教えて欲しかった!」
「だから言っちゃダメなんだって!」
バクヒロとニントモの間で激しい感情が交錯する。
ただ、マミヤやキネコにはこんな思い切り言い放つことはできなかったので、バクヒロはどこか少しだけスッキリしていた。
「ニンは弟者が真っ先に相談すべき存在じゃないのか。ともかく今後のことを考えなきゃいかんぞぃ」
「そうだね」
「こんな時のために前もって暖めていたアイデアがあるかんな。その名も兄弟戦士フローリッシュ・マンダム&チンダム。コンセプトはマンモスとチンパンジーだぞぃ。ニンがマンダムを担当するから弟者はチンダムで」
「いや、あの。ニントモ……」
「大丈夫、任せておくぞぃ。ニンと弟者は義兄弟なんだからな。本当は師匠キャラになりたかったけど、こうなっちゃったらしかたないぞぃ。これから力を合わせてフローラルキティンの後を継いでいくぞぃ、オー!」
ニントモは勇ましく拳を振り上げた。
その姿をマミヤとキネコが気まずそうに見守る。
「それが、フローラルキティンの後継者は女性じゃないとダメなんだ」
「じゃぁ、ニンたちがスーパーヒーローになるって話は?」
「そんな話ははじめからないし、ボクもなれない。だから彼女たちがフローラルキティンの後継者に決まったんだ」
ニントモに説明するために改めて口に出してみて、バクヒロはやっとその事実を飲み込めたような気がした。
ニントモは今まで不自然に無視をしていたマミヤとキネコをキッと睨む。
マミヤとキネコは、バツが悪そうに鮮やかに視線を逸らした。
低い唸り声をあげて悔しそうに身を縮めていたニントモがパッと顔を上げる。
「実はニンは女だったのだわよ」
「さすがに往生際が悪いよ」
「ダメだと思うぞぃ! あんなみっともない戦いするようじゃ。この二人はスーパーヒーローのことなにもわかっっちゃいないぞぃ」
二人の鼻先に指を突き刺してニントモは鼻息を荒くする。
キネコがなだめるように、静かにゆっくりと言う。
「ニンくん。これは決まったことなのだからしかたないの」
「ヘンッ! どうせ弟者の身体が目当てに決まってるぞぃ」
「上等よ。どっちが戦いに向いてるか、身体でわからせてあげようじゃない」
マミヤが立ち上がり拳を鳴らした。
女性にしては長身なマミヤは、ニントモと並ぶと倍くらい大きく見える。
「……っ! 残念でした。ニンは毒手拳の使い手だからさわると死ぬぞぃ」
「構わないわよ、かかってきなさい」
「もっと命を大事にしなきゃダメなんだかんな」
「ニンくん」
二人の女の子に追い詰められ、ニントモはあとずさりすると泣きそうなほど顔を歪める。
「なんだよぅ! お前たちより弟者の方が絶対いいスーパーヒーローになれるのに! お前ら知ってるのかよ、弟者がどんなにスーパーヒーローになりがたがってたか!」
絞りだすようなニントモの言葉に、マミヤもキネコも動きを止めバクヒロを見つめる。
ニントモの気持ちに、自分の気持ちにも答えられなかった不甲斐なさが、鋭く重い圧力としてバクヒロを追い詰める。
「――弟者がなるんだ。スーパーヒーローに! なんなくちゃいけないんだ!」
「そんなこと言ったってしょうがないだろっ!」
バクヒロは思わず大きな声で叫んでしまった。
「なんで弟者まで味方すんだよ……。せっかく二人で頑張ろうって思ってたんだぞぃ。もういい、弟者なんか兄でもなければ弟でもないかんな。怪人にコテンパンにやられちゃえばいいんだぞぃ」
そう言ってニントモは椅子を蹴倒して走って出て行った。
「なんなんだよっ! いつも勝手ばっかり言ってさ。もうあんなやつ知らないよ。放っておこう」
バクヒロはそう言いながら椅子に身体を投げ出して、テーブルにあったコーヒーカップを持つ。
マミヤとキネコはバクヒロのことを黙って見ていた。
「いいんだ。あんなやつ。最初から関係ないんだから。さ、作戦会議の続きをしなきゃ」
そう言いうとキネコが遠慮がちに言う。
「バクくん……」
その言葉にバクヒロは睨みつけるような視線で返した。
続いてマミヤが口を開いた。
「いいけど、そんなの飲んだら死ぬわよ」
手に持ったコーヒーカップをよく見ると、それはコーヒーカップとはあんまり似てない醤油差しだった。
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