第5話
プロポーズするしないというのは本来相手ありきの悩みなはずで、一番最初の問題は『誰に』するのかということだ。
まず、スーパーヒロインとしてふさわしくなければならない。
さらには、自分の奥さんとしてふさわしくないといけない。
筋肉モリモリの女子格闘家や、戦うことが三度のメシより好きなアマゾネスはスーパーヒロインには向いてるかもしれないけど、長い人生の伴侶として連れ添っていける自信がない。
そもそもバクヒロはアマゾネスに知り合いがいない。
一番仲のいい女性を思い浮かべようにも、一番も二番もなく、仲のいい女性なんて一人もいない。
仲のいい人類と範囲を広げた所でニントモ以外には思いつかない有様だ。
だいたい結婚を前提とか、スーパーヒロインの後継者とか、一般的ではない要素が占める割合が多すぎて普通の恋の悩みのスケールじゃなくなってる。
振られたとしても、それはバクヒロの人間性に問題があるのではなく、スーパーヒロインだとかプロポーズだとかの条件に問題があるわけで。
はじめから負け戦なんだからある意味気が楽だ。
勝ち目のない戦いに挑んでいったスーパーヒーローたちは、こんな気持ちだったのかも知れない。
バクヒロはやらなければならない。
自分のためではなく、多くの人を守るために、スーパーヒーローのために。
これまでバクヒロが人生で出会った女性を厳しい身勝手な脳内オーディションにかける。
見事勝ち抜いた候補者は、マミヤだった。
同じクラスの女子という手近さが勝因の一つではあるが、クラスだけでなく他の学年にまで名が知れ渡っている。
背が高く、手足が長く、背筋を伸ばした姿勢は、遠目から見てもそれとわかるほど決まっていて、男子よりも多くの女子生徒から崇拝されている。
何とかと言うバレエの有名なコンクールにも出たことがあるらしい。
能力的なことを言えば文句のつけようはない。
バクヒロの知りうる限り、もっともスーパーヒロインにふさわしい女性といえる。
ついでに恋人としても合格だ。
むしろ大合格だ。
まともに会話したことは一度もないが。
放課後、バクヒロはマミヤを呼び出した。
人気のある彼女は用事があるらしく、彼女がやって来るまでバクヒロはただただネガティブとポジティブの感情を行ったり来たりしていた。
「ボクと結婚して、世界の平和を守ってくださいっ!」
気合一閃、渾身の告白だった。
やるべきことはやった。
大人になるための通過儀礼を成し遂げた満足感でいっぱいだ。
これで母への言い訳もたつ。
ベストは尽くした。
結果が問題じゃない。
この経験はバクヒロを飛躍的に成長させたに違いない。
挑戦すること、そしてやり遂げることがなによりも肝心なのだ。
精一杯の告白が終わり、お決まりの返事をもらって帰ろう準備をする。
マミヤは半歩だけバクヒロに近づき手を振り上げた。
いくらなんでも殴られるとまでは考えてなかったが、殴られてもしかたない。
思春期の女性にとって恋愛というのはとてつもなく重要なイベントだろう。
それをこんな言い訳にまみれたもので穢されたとあったら怒りも湧いてくるに違いない。
ぎゅっと目をつむって覚悟を決めると、マミヤはバクヒロの手をとってブンブンと上下に振った。
「いつなんどき、誰の挑戦でも受けるわ!」
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